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「それは本当の事なのか?」
ナギは眉をひそめて、報告をもたらした通信参謀に問い質した。連合軍はセークモートン星系でサンザーと戦っていた、BSI部隊がようやく合流し、陣形の立て直しを図りかけていたところである。通信参謀は軽く頷いて応じる。
「はい。ヤヴァルト宙域側へ進出させた哨戒駆逐艦が、ウォーダ軍のセッツー宙域遠征部隊から、ウーサルマ宇宙城への超空間電信を傍受した模様です」
「………」
口元を引き締め、思案顔になるナギ。通信傍受だけでは、本当にノヴァルナ部隊が、こちらに針路を変更したのか真偽は不明である。
「もしかすると、欺瞞情報による攪乱戦術かも知れませんな」
参謀長が可能性を口にする。ナギは思案顔のまま情報参謀に尋ねた。
「ノヴァルナ公がサンザー殿らの討ち死にを、お知りになった可能性はあるか?」
ウーサルマ星系からノヴァルナ部隊までは、まだ相当の距離があり、超空間電信であっても中継システムの関係で、半日近くタイムラグが発生する。ノヴァルナがサンザー達三人の司令官全員の討ち死にを、すでに知っているかいないかで、採るべき戦術も変わるため、重要な見極めポイントだ。しかし当の情報参謀が浮かべた表情は、困惑だった。
「微妙なタイミングですね。知らずに退路をこちらへ変更した、とも考えられますし、サンザー殿らの敵討ちをするつもり、とも取れますし…」
「うーん…」
腕組みをし、声を漏らすナギ。すると艦隊参謀が、別の可能性を口にした。
「あるいは、アデューティス星系への撤退コースを進むのが、困難になったのかも知れません」
艦隊参謀の意見にも一理ある。ノヴァルナ部隊の撤退針路は、皇都キヨウのあるヤヴァルト星系を避け、新本拠地が建設中のアデューティス星系へ向かうコースだと思われるが、その周辺ではオウ・ルミル宙域のコーガ恒星群から出撃した、ロッガ家残党の複数の部隊が、戦闘活動を行う手筈となっている。こちらも相当な距離があり、情報もほとんど入らないため状況は不明だが、ロッガ家が戦果を挙げていて、ノヴァルナ部隊が航過するのに危険度が増しているのなら、このウーサルマ星系へ向かう事も、考えられなくはない。
どうするべきか…と、思考を巡らせるナギ。するとそこに連合軍を組むアザン・グラン軍司令部から、ホログラム通信による意見交換の提案が入る。当然だが断る理由も無いナギはこれを承諾して、幹部達と『コウリュウ』の作戦室へ移動した。
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