第12話:天下の駆け引き

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  双極宇宙論―――  それは偽星帥皇であったバイオノイド:エルヴィスが、ノヴァルナと戦って敗死する間際に告げた、『アクレイド傭兵団』最高評議会が重要視しているという、言葉であった。それがここで出て来るのは、やはり『超空間ネゲントロピーコイル』と傭兵団の間には、何らかの関連性があると見ていいだろう。  だが、ここでその言葉を口にした当人のルキナも、理論の中身については詳細まで知らないようだ。申し訳なさそうな声で、説明を続ける。 「双極宇宙って言うのは、世界線の変化で発生する多元宇宙とは違って、私達のこの宇宙と、“陰と陽”や“プラスとマイナス”みたいな関係になっている、もう一つの宇宙が、原初から存在しているっていう説らしいの。この二つの宇宙が互いにバランスを取り合っている、とかなんとか…って聞いたんだけど。ごめんなさい、思い出せないわ」  “双極宇宙論”については、バイオノイド:エルヴィスから伝えられて以来、ノアが『超空間ネゲントロピーコイル』と並行し、調査を続けているのだが、残念ながらほとんど進捗していない状況だった。 「この二つの宇宙を隔てているのが、“熱力学的非エントロピーフィールド”で、この中に進入する事によって、もう一方の宇宙を観測できるようになるそうなの。でも可能性があるっていう範囲だけどね」  するとルキナはそこで、声のトーンを落として、自身の懸念を告げる。 「それでも…“観測”が出来るって事は、場合によっては、“干渉”も出来るって事になるわ。これもまた可能性の話だけど」  これを聞いて、ノヴァルナとノアは真剣な眼差しを絡ませた。二人ともルキナの懸念を否定できない、と思ったからだ。  確かに、ノヴァルナ達のいる世界では、ただ建造されただけで何も使用されていないように見える、『超空間ネゲントロピーコイル』だが、もう一方の宇宙で何者かによる何らかの活動に、使用されているかもしれないのだ。  ルキナの解説はそこで終わり、最後に“また研究データを送るからね”と告げ、ホログラム映像自体も終了した。 「もう一つの宇宙だぁ?…なんか、ややこしい話になって来たもんだぜ」  ノヴァルナはそう言って腕組みをし、ため息混じりに天井を見上げる。対するノアは全く身動きせず、考える眼で思考を巡らせる様子だった。 「どした、ノア?」  問い掛けるノヴァルナにノアは一つ頷き、振り向いて応じる。 「うん…今のルキナさんの“双極宇宙論”の話で、会ってみたい人がいるの」  
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