第12話:天下の駆け引き

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   そこへ通信機が鳴り、『ホロウシュ』のクローズ=マトゥが、キノッサ一行の到着を告げる。「よし。第一応接室へ通せ。すぐ行く」と応じたノヴァルナは、席を立つとジークザルトに「おまえも来い」と命じた。  自治星系の領主で、銀河中に商圏を広げている超巨大企業の代表であっても、民間人は民間人であり、『新封建主義』のヒエラルキーにおいては、武家階級より下位となる。ミョルジ家の当主であったナーグ・ヨッグ=ミョルジは生前、民間人のソークン=イーマイアと会談する際には、これ見よがしにソークンを待たせて、殊更互いの立場を強調していた。  しかし実利優先のノヴァルナにはそういった思考は無く、ソークンが『ヒテン』の第一応接室に入って、十分も経たないうちにやって来る。訪問者にコーヒーを用意した下士官が出ていく際に、ぶつかりそうになったほどだ。 「いやぁ、お待たせした!」  まるでどこかの中小企業の若社長のような軽快さで、開いたドアから入って来るウォーダ家の当主に、ソークンは些か面食らった顔になる。ソークンの他にいるのは、キノッサとその側近のカズージにホーリオ。さらにアンドロイドのP1-0号に加え、ザーカ・イー星系からキヨウへ向かう間に、キノッサの第9戦隊から合流した参謀のデュバル・ハーヴェン=ティカナックもいた。一方のソークンは二人の人間を連れており、年齢と身なりからしてどうやら、ザーカ・イーの行政評議会のメンバーだろう。  ノヴァルナの言葉にソファーを立とうとする全員を、ノヴァルナは右手で制し、上座のソファーにドカリと腰を下ろした。すかさず事務補佐官のジークザルトが左側に立つ。 「まずはよく参られた。資金供出の件と合わせ、このノヴァルナ、深く感謝する」  自己紹介もそこそこに、初っ端に自分から頭を下げて来るノヴァルナ。ソークンは「滅相もございません」と応じて返礼しながら、胸の内で“なるほどこれは、只者ではない…”と、ノヴァルナを評した。部屋に入るところから行動としては若輩者なのだが、それらしさが無くむしろ躍動感を感じさせる。言い換えれば、光を感じるのである。 “時代の寵児とはこういうものであろうか…”  内心でそう呟きながらソークン=イーマイアは、あえてゆっくりとした口調で、重々しく頭を下げながら挨拶した。 「ザーカ・イー自治星系行政評議会議員、イーマイア造船代表取締役、ソークン=イーマイアにございます」  
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