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暗い顔をしていたお母さんが笑ってくれた。
「私たちのことを気にかけていてくれた人がいたなんて…嬉しいです。私もいい加減、前を向かなくちゃ。この子も今度通う、ろう学校にはちゃんと行かせます。あの…それが、近いうちに実家のある九州に引っ越すんです…ご親切にありがとうございました」
男の子は手を振りながら、帰って行った。
荷物はお母さんが一つ持って、男の子は右手に肉まんあんまんのふくろを大事そうに抱えていた。
「もう会えないかも知れないのか…」
直美はしばらく親子の後ろ姿を見送っていたが、自転車に戻って思い切りおおげさにペダルを踏み込んだ。
冬の空気の冷たさと今しがた起きた温かい出会いが混ざりあって清々しかった。
あれから10年。
あの子はきっとどこかで、優しい性格そのままに、いい青年になっていることだろう。
3度すれ違っただけなのに、今も思い出す親子のシアワセを願うのだった。
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