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その親子は、スーパーがある方から歩いて来た。
恐らくそこで買い物をして来た帰りなんだろう。
違和感はその子にあった。
左手にティッシュが5箱入った袋を持ち、右は、かなりぎゅうぎゅう詰めにされたショッピングバッグを肩から掛けていたのだから目に留まるのも無理は無かった。
その子の顔を見ると歪んでいた。
"お母さんが、ベビーカーの取っ手に提げればいいのに、なんで子どもに持たせているんだろう?"と直美は思ったのだ。
お母さんは、そんな事は気にしている様子もなく赤ちゃんが乗るベビーカーを平然と押していた。
時々うしろにいるその子を振り返ることもしていなかった。
その子の顔が歪んでいる理由は、荷物が重いだけの問題ではないのではないか、と直美は思った。
その子は、直美がすれ違いざまに笑顔を向けた事で、こんなところを見られてしまったというバツの悪さから顔が歪んだのかも知れない。
もしかしたら、この状況を助けて欲しいと思って苦しくて顔が歪んだのかも知れない。
身なりは、ちゃんとしていたが、家ではネグレクトされているから学校に行きたくても行かせてもらえないのかも知れない。
直美は声をかけようと思ったけれど、結局そのまますれ違って通り過ぎてしまった。
初めて見かける親子に声をかけることはやはり出来なかったのだ。
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