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3
ドンッ!
「あっ」
隙をついて真也の手を振りほどき、歩夢はまた全力ダッシュで逃げ出した。
まっすぐに家に向かえば先回りされるかもしれない。
もう殴られたりからかわれたりするのはイヤだった。
だけど涙で汚れた顔のままで帰って、お祖母ちゃんを心配させるのはもっとイヤだった。
一人になりたい。
歩夢は住宅街を走り抜けて、公園や児童館の前を突っ切り、町はずれの菩提ヶ森までやってきた。
ここには自然学習の授業や子供会のデイキャンプの時に何度か来たことがあったので、危険な箇所や休憩できる東屋の位置もわかっていた。
森というほど深くはなく、整備された林道が縦横に走っていて見通しもよいので、昼間なら一人で分け入ってもあまり怖くはない。
古い巣箱の掛った椎の木の脇を通って、落ち葉の降り積もる雑木林に足を踏み入れ、車の騒音や人の声が届かない奥地まで走って、ようやく歩夢は足を止めた。
あたりはとても静かで鳥の声と葉擦れの音、足の下で小枝が折れる乾いた小気味よいパキパキいう音以外、なにも聞こえない。
安心して思わずため息が漏れた。
が、
「?」
歩夢は額の汗を拭って顔を上げた。
聞き慣れない音がする。
キーンキーンキーン
金属を打ち付けるような硬質で規則的な音だ。
「なんの音だろう」
今いる道をまっすぐ進み、右に折れればデイキャンプや篝火が楽しめる広場に出る。
左に折れれば周囲を金網で囲まれた野池があり、時々中学生がブラックバスを釣りにきたりする穴場だ。
音はそのどちらでもなく林道をまっすぐ、藪を突き抜けて進んだ正面の方向から響いてきている。
工事でもしているんだろうか。
歩夢は音に導かれるように道を外れ、羊歯やクマザサが繁茂する未踏の地面に足を踏みだした。
ヘビとかムカデとかがいたらどうしよう。
背の低いトゲの生えた潅木がジャマをするので、思うようには歩けない。
拾った枝で藪を漕ぎながら、歩夢はついそんなことを考えてしまう。
クマ、は出ないと思うけど、イノシシとか野犬とか……。
さわさわと頭上の枝を風が揺さぶる。
サルは出るかも!?
思わず頭上に気をとられ、足元がおろそかになった瞬間、
「わっ」
落ち葉に埋もれていた倒木につまづいて歩夢はバランスを崩した。
「わわっ」
とっさに地面に手を突こうとした。
つもりだったのに。
歩夢のつま先の30センチ先で、地面は唐突に途切れていた。
「わわわっ」
勢いが止まらず、歩夢の身体はつんのめって藪を飛び越え、次の瞬間そのまま下の窪地へと投げ出されていた。
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