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「痛ってー」  空中でどんな回転をしたのか、ランドセルがクッションになってくれたのが幸いだった。  それでも砂利混じりの乾いた地面にお尻と背中を打ち付けて、歩夢はしばらくの間、仰向けに地面に転がって動けなかった。  雲よりずっと高い所を小さな白い飛行機がゆっくりと横切ってゆく。  あの空から見下ろしたら、この森なんか豆粒より小さいんだろうな。  その豆粒の森の底に僕が一人でいることなんか、わからないだろうな。  歩夢は、寂しいような清々しいような不思議な気持ちでそれを見送っていた。 「おい、生きてるか?」    その視界を遮って、誰かがにゅっと顔を出した。  「わあ!」 「動くな」  驚いて跳ね起きようとした歩夢のお腹を、泥だらけの古いブーツが踏みつける。  歩夢は呆気にとられた。  乱暴者の秀太でさえ、倒れた歩夢を踏んづけたりはしなかったのに。  びっくりしたあとは猛烈に腹が立って、歩夢はそのブーツを払いのけながら怒鳴った。 「なにするんだよ、足をどけてよ!げほっ」  起き上がったとたん、めまいがして息が詰まる。 「背中打ったんだろ、急に動くなって」  とその人は繰り返した。 「げほっ、ごほっ」  しばらく咳き込んで、歩夢はようやく落ち着いた。 「おまえ、どっから来た?」  顔を上げると目の前に鋭い赤い眼があった。  しゃがみこんで歩夢の顔をじろじろと観察している。 「あ、あの……」  金と銀を練り混ぜたような奇妙な色の髪をしたその人は、裾を絞った緑色のズボンと、汚れた革のブーツを履いていて、上半身は裸だ。 「あそこから落ちて……」  歩夢は恐る恐る窪地の上縁を指差した。 「そうか」  仰ぎ見るその人の耳に深紅の勾玉が下がっている。 「お兄さんは……」 「あ!?」 「パンクの人?」  YouTubeで見たことがある。  暴れながら歌う坊主頭やモヒカンのバンドマン。   なぜかみんな上半身は裸だった。  そしてギターを振り回したり、スピーカーを蹴破ったり、マイクスタンドを放り投げたりとステージ上で大暴れしていた。  あんな怖そうな人たちの仲間と、こんな森の奥で遭遇するなんて。 「クマの方がマシだ……」  思わず心の声が漏れる。
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