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息子の場合
ポケットの中で携帯が振動する。来たよ。誰からの連絡か分かってる。
時間を確認するレベルのチラ見で通知に目を通すと、やっぱりだ。
『今どこにいますか?』
どこに居ようと俺の勝手だ。母からのこの手の連絡はすべて無視する。
午後10時、よくもまあ飽きもせず聞いてくるよ。実際、忙しくて返信どころじゃないんだ。
「何? 誰誰?」
「なんでもないよ。時間見ただけ」
「うっそー。女でしょ」
「違うよ」
バイト終わりにこうして彼女とファミレスで飯を食いながらダラダラするのが最高に楽しい。
こういう楽しいひと時の腰を折られるのが俺は大嫌いだ。返信が無い時点で察しろよ。嫌なんだよ。
まあ、誰しもそうかもしれないが、高校に入学したころから俺は母親のことがウザくてどうしようもなかった。
「ねえ、誰? 女?」
「違うって」
「違うなら見せてよ」
「何だよ、もう。母親だし」
母親からの連絡だなんて、カッコ悪くて言いたくない。
けど、浮気を疑われる方がもっと最悪だ。俺はサッと一瞬だけ画面を見せた。
「ホントだ。何々? 大丈夫? なんかあった?」
「別に。“今どこにいますか”だって。俺の勝手だっつーの」
帰れば小言を言われることも分かってる。俺はため息をつきながら「帰りたくねぇな」とぼやいた。
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