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意中の女性と、食事に来ていた。
これで何度目かのデートになるが、いまだに話題が尽きることはない。彼女とのおしゃべりは、楽しかった。
そういえば、と彼女が言った。
「今年の秋は、紅葉が遅いね」
そうだね、と僕は頷いた。異常気象なのだろう。僕たちが暮らす地域は、温暖な気候だが、さすがに十一月にもなれば紅葉が始まっている。
「なんで紅葉って、赤と黄色があるんだろう。知ってる?」
知らない、と僕は頭を振った。
「君は知っているのかい?」
知らない、と彼女は笑った。人間がこの時期に色づくのはわかるけど、と彼女は続けた。
「人間が?」
「ほら、もう蜜柑が美味しい季節になるでしょ。蜜柑を食べると、指先が黄色くなるじゃない」
君が蜜柑好きだからだよ、と僕は笑った。
「でも、赤くなる程、寒くはならないと思うな」
「寒く無くて忘れそうだけど、もう一二月も近いよね。……あのさ、来月の二十五日、空いていないかな?」
彼女の頬は、ほんのりと赤かった。
きっと、僕も。
店に入った時には、こんなに冷えていたろうか。店の外へ出ると、思っていたよりも冷たい風が打ちつけてきた。
くしゅん、とくしゃみがでる。
隣でも、小さくくしゃみの音が鳴った。
顔を見合わせて、くすりと笑い合う。
彼女の手は、ほんのりと温かかった。
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