36人が本棚に入れています
本棚に追加
【 時よ戻れ 】
――次に目を覚ました時には、あの釣鐘の下に倒れていた。
ゆっくりと目を開け、上半身を起こすと、私の目の前にはあのお坊さんが立っている。
「大丈夫ですか? おかえりなさい。無事に帰って来れたようですね」
「今……、いつですか……?」
「5月8日土曜日、午後7時ですよ」
このお坊さんが言う通り、ピッタリ1時間だけ過去へ戻っていた。
「私、過去から戻って来れたんですね……」
「ええ……」
お坊さんが左手を差し出し、私の手を取り、体を起こしてくれる。
「過去は変えられましたか?」
「い、いいえ……、結局、変えることはできませんでした……」
それを聞いたお坊さんは、少しやさしい表情で私を見た。
「そうですか。でも、あの列車事故、死傷者は50人程だったそうですよ」
「えっ……?」
「ある女性が、あの列車に乗らないで欲しいと前の駅で叫んだそうです。それを信じた人たちが列車を降りていたようですよ」
私は、その言葉を聞き、お坊さんにお礼を言うと、思わず駆け出していた……。
あの陸との思い出の場所へ……。
最初のコメントを投稿しよう!