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【 エピローグ: 時ヲ震ワス鐘 】
間違いない……。
忘れるわけがない……。
小学生からずっと一緒だった彼の声。
16年間、ずっと大好きだった陸の声。
忘れるわけがない……。
「り、陸……、陸ーーーーっ!!」
私は立ち上がりながら、そう叫び、彼の元へと走った。
彼も慰霊碑の裏から出てきた私に気付くと、土手を走ってくる。
そして、慰霊碑のある広場の中央で、私たちは勢いよく抱き合った。
「陸、生きててくれて、ありがとう……! 本当に、ありがとう……」
私の瞳から零れ落ちる大粒の涙が頬を伝い、陸の着ている服を濡らす。
彼は私を強く抱きしめると、耳元でこう言った。
「僕の方こそありがとう。君が、紬が僕を救ってくれたんだ。あの時、紬が叫んでいる姿を見て、みんなを1両目から3両目以降に移動するようにお願いしたんだ。全員、紬の言うことを信じる者はいなかったけど、でも、紬の言うことを信じた人だけが後ろの車両へ移り、多くの乗客が助かったんだ。ありがとう、紬……。君のおかげだよ……」
「そうだったんだね……。陸も沢山の人の命を救ったんだね……。うぅぅ……、陸が生きてて良かった……」
涙を流しながら、笑顔で再び、陸と強く抱き合う。
「僕も大怪我をして1ヶ月くらい入院しちゃったけど、今日、病院を退院できた。今日は、紬との結婚式の予定だったから、どうしても紬に会いたかった。紬の携帯のGPSが、この場所を指していたから……」
私は両手を陸の首の後ろへ回して、零れ落ちる涙も拭かずに、笑って少し唇を噛みながら、甘えるように思いを伝えた。
「ありがとう……。陸……、大好きだよ……。ずっと、ずっと、大好きだよ。もう、どこにも行かないでね……」
「ああ、どこにも行かない」
私たちは、ふたり見つめ合い、次におでこを付け合い、鼻を付け合い、そして最後に唇を重ね合わせた。
乾いていたふたつの唇は、やがてひとつに溶け合い潤いを取り戻してゆく。
このふたりの思い出の場所で、彼は私の左手の薬指に、ポケットから取り出した新しいリングをはめてくれる。
今日この日、私は16年間ずっと大好きだった、陸のお嫁さんになった。
そして、少し大きくなったお腹の中で、
私たちふたりの新しい命が
小さく、祝福してくれた……。
(了)
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