36人が本棚に入れています
本棚に追加
【 慰霊碑 】
彼の遺体が発見されたのは、事故から2日後のことだった。
先頭車両に乗っていた陸は、川底に勢いよくぶつかり、川の中に沈んでいるグシャグシャになった車両の中から見つかった。
頭部と顔の損傷が激しく、私は彼を見た時、彼だと認めたくなかった。
「違う……、この人は、陸じゃない……」
陸の首筋にあるホクロを何度も指で摩りながら、仰向けになっている彼の胸の上で涙した。
――あの事故から1ヶ月程経った、5月8日。
この日は、陸と私が結婚式をあげる日だった。
そんな日に、昔、彼とよく来たこの美野川のほとりに来ている。
ここには、真新しい犠牲者を悼む慰霊碑が建てられていた。
慰霊碑の裏に刻まれた陸の名前を探す。
左側の下の方に、小さな文字で『磐田 陸(享年25)』と刻まれている。
その陸の名前を何度も指でなぞる。
もう陸は、帰ってこない。
今日、彼と結婚式をあげるはずだったのに……。
この私たちの思い出の詰まった場所で、彼は逝ってしまった……。
「陸……、痛かったよね……。苦しかったよね……。ごめんね、助けてあげられなくて……」
私は跪き、陸の名前に婚約指輪をした左手を重ね合わせて、頭を慰霊碑につけながら、声を上げて泣いた。
「はぁぁ……、陸……。陸……」
私の感情とは裏腹に、美野川の流れは、今日も穏やかだ。
この景色を見る限り、陸がここで亡くなったなんて、とても信じられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!