【 陸の眠るお墓 】

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【 陸の眠るお墓 】

 陸の眠るお墓は、この慰霊碑の広場から車で30分程行った、美野山(みのやま)の中腹にある『時鐘寺(じしょうじ)』という寺にある。  その陸のお墓へと、ひとり車で向かう。  この墓地は、山を切り開いた場所にあり、今回の列車事故で亡くなった人も沢山眠っている。  車を降り、私はまだ真新しいお墓が並んでいるところまで歩いて行く。  左手にはお花、右手には柄杓(ひしゃく)の入った水桶を持ち、陸のお墓の前で立ち止まる。 「磐田 陸……。ここだ……」  持ってきたタオルを水桶で濡らし、まだ新しい墓石を拭いて掃除をする。  柄杓で水鉢に水をお供えしてから、花立に持ってきたお花を供える。  目を(つむ)りしゃがみ込み、両手を合わせながら、涙声で陸に話かけた。 「陸……、私を置いて逝っちゃうなんてひどいよ……」  陸は何も答えてくれない……。  もう、ここには陸の体も存在しない……。  私は跪き、両手を地面につけて強く握り締め、閉じた瞳から大粒の涙が零れ落ちた。 「陸のいない未来なんて、生きている意味なんてないよ……」  声を出して泣いた。  このお墓に、私の泣き声が響き渡った……。  ――しばらくすると、(うつむ)いている私の側まで歩いてくる足音がした。  足音が私のすぐ左横で止まり、やさしい声が聞こえてきた。 「どうなされましたか?」  私は涙を左手で拭うと、その声のする方を見た。  すると、目を細めた穏やかな表情をした、このお寺の住職らしきお坊さんが立っている。  頭は綺麗に剃られ艶があり、緋色(ひいろ)法衣(ほうえ)に、金色と黄土色の継ぎでできた袈裟(けさ)をしている。  私は涙目でそのお坊さんを見つめていた……。
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