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『響子、今どこにいるの?』
暗闇の中で黒板に書かれた白い文字が見えたとき、私は驚いて懐中電灯を落としてしまった。
転がった懐中電灯の光が真っ暗な教室を暴れ回る。
真夏だというのに、恐怖感からか汗が引いていた。
なんだろう、この不思議な感じ。見たことがあるようなないような。
「響子、大丈夫?」
千鶴が軽く笑いながら言った。
「あ、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」
まさか自分の名前が書いてあるなんて思わなかったから、かなり動揺している。
「響子っていう名前の女子に同級生がいたずらで書いたんじゃない? にしても、ちょっとビビり過ぎだよ」
まーちゃんも笑っている。
私は震える手でライトを拾い、もう一度「ごめん」と謝った。
「怖いのは当たり前だよ」
有紗が優しくフォローしてくれて、私は少しだけ落ち着く。有紗がいてよかった。
この三人の中だと、彼女だけには本当の自分を出せる。ドジなところもだらしないところも。私の親友だ。
「有紗、ありがとう」
「とりあえずさ、先進もうよ」
千鶴が教室を出て先へ行こうと促している。私たちはライトを照らしながら廊下へ出た。果てしないほどの闇がそこにはあり、ライトの明かりが奥の方で薄くなっているのがわかる。
「じゃあどうする? 音楽室とか、理科室とか? 学校の怪談とかであるじゃん。目玉が動くベートーベンの肖像画とか、突然動き出す人体模型とかさ」
「いいね、じゃあ音楽室行こうよ」
千鶴の提案にまーちゃんが反応する。
「でも、音楽室も理科室もたぶん、鍵掛かってるんじゃない? 入れないよきっと」
有紗が冷静に言葉を返すと、二人はわかりやすいぐらいに落胆の声を上げた。
「そうだよ、最悪」
「じゃあどうする? とりあえず上の階にでも行ってみる?」
ハッキリとした目的もなく、私たちは階段を目指して歩き出した。
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