7人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
ほろ苦モンブラン
私の好きなモンブランは、甘ったるいくせに、ちょっと苦い。
「うまっ!やっぱり糖分補給はこれに限るわ」
「そんな毎週毎週ケーキ食べてたら太るよ?」
駅前の超人気デザート専門店。可愛らしい装飾が施された店内。
テーブル越しに向かい合っているのは、大柄な幼馴染だ。本日の目標を成し遂げてご満悦な様子の彼を前に、私は言う。
「昔っから本当に甘党だね」
「まあまあ、一口ぐらいミナも食ってみなって。や~ホントにうまい」
そう言いつつ、念願のモンブランを食べ終えたようだ。ショウちゃんはメニュー表を取り出して、また次の獲物を探し始めた。
幼馴染のショウちゃん。
幼稚園、小学校、中学校と気づけばずっと同じ学校だった。高校は違うけど、いわゆる腐れ縁ってやつ。
初めて出会った幼稚園の時と比べたら凄く背が伸びちゃって、今は週六回もテニスしてるバリバリの運動部らしい。
昔と比べると、厳しい日差しで黒く焼けた肌も、ちょっと焦げた栗色の髪も、まるで別人みたいに感じる。
「やっぱ男一人でこういう店入るの気まずくてさ、マジで一緒に来てくれて助かったわ」
「そうだよね、ショウちゃんみたいな人がこんな可愛いお店に一人でいたら五度見する」
「うっわ~、相変わらずひでぇ」
豪快にゲラゲラと笑う。
もともと開放的で誰に対しても明るい性格は、今も変わらない。
見かけによらず甘いものが大好きなこの男。
実は、私の初恋の人だったりする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一ヶ月前、突然彼からメールが来た。ショウちゃんとメールなんてしたの、何年ぶりだろう。
今まで、ただ家が近所ってだけで、それなりに一緒にいた。だから、別れもそれなりにごくごく自然に来るものだと思ってた。
成長と共にだんだん距離が開いて、中学を卒業して、高校は別々になった。なんとなく疎遠になって、それっきり。
覚えてるのは、卒業式の日に男子校行くとか言ってたことくらい。
そうやって、お互い自分の道を歩んでいった。はずだった。
「苺、超うまっ!あ、最近どう?」
「普通かな、てか何が」
「いや、彼氏とか。もう出来た?」
珍しい話題に、不意をつかれる。
「は?相変わらず出来てませーん、独り身JKでーす」
「ミナは真面目すぎるんじゃねぇの?飾らなければ充分可愛いのに」
さっき頼んだショートケーキ(本日五個目のケーキ)を食べながら、サラッとそんなことを言う。私は、思いっきりテーブルの下のたくましい足を蹴る。
「いてっ」
時間がいくら経過しても変わらない空気感。またこんな風に話せる日が来るなんて、想像もしていなかった。今更取り繕う必要もないし、素を出せるから居心地は良い。
でも、ショウちゃんの前だと、やっぱり調子狂う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メールの内容は、「頼むミナのパワーを分けてくれ」。電車の中だったけど、思わず笑ってしまった。
高校三年生。受験に向けてストレス過多な日々を過ごすうちに甘いもの(主にケーキ)にハマったが、店に入るのは人目が気になる。だから、一緒に来てくれお願いします!というメールだった。
そんなこんなで今に至る。メールがいきなり来た理由は未だに分からない。ただの気まぐれかもしれない。
けれども、なんだかんだ、毎週末の学校帰りにこのお店で一緒に過ごしている。そう、飽きもせずに毎日毎日遊んでいたあの頃みたいに。
「ここのモンブランがホント美味いんだよな~!ほどよい甘味でくどくなくてさ、だけどしっかり存在感があって」
「私は甘いの苦手だからなー、プレゼンは無意味だよ」
甘党のショウちゃんには到底飲めない、コーヒーを口にする。
「ほいほい、強要はせんよ」
「口、クリームついてるよ。ていうか、もうモンブランの季節かあ」
ブブブッ。
これで会話は強制終了だと言わんばかりに、突如響いたバイブレーション。
ショウちゃんは、素早くポケットから携帯電話を取り出す。
「あ、後輩だ」
最初のコメントを投稿しよう!