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「――はい。そのサイズでしたら、外注対応になりますから、それ以上の値引きっていうのができないんですよー。はい。お願いしますー」
営業部長が電話を切った。時計に目をやった。5時半過ぎ。
「今日はもう上がりや」普段とは違う、今日はやさしい目をした営業部長が茶封筒を昼過ぎに手渡してくれた。
25日――今日は働いて初めての給料日。
宇宙から社会勉強でやってきて、訳の分からん怪しいブラックと呼ばれる会社に紛れ込んだ。
入れ替わったニートと呼ばれたの男は宇宙船の睡眠カプセルで寝てもらってる。
今日はストレスの溜まる日々への初めての報酬。
なんでこの惑星はへんな会社があるのかと思う。
たぶん税金対策か2~3年でつぶれることを前提に出来た会社だと推測される。
いろんな名義の会社が同じ会社内にある。
同じ営業課の先輩は得意先からのクレームで頭200回下げにいったと自慢げに言ってる。
「こんなんあかんで、めちゃくちゃや~!担当者呼んでくれ!」
上司は苦情を入ったばっかりの新人に押し付ける。
客を客と思ってない。
営業は営業で換気扇の営業の人間は訪問販売もするので「~のタイプをおつかいですよね~」
いいながらマンションを軒並み周り、インターフォンをすぐ切られたら後ろにいて腕組んでる上司にケツをけられる。
蹴られもって仕事を覚える―――ストレスがたまるはずだ。家に帰ったら女房に当たるそうだ。
僕はまだ一緒に見て付いて周る段階だがいずれそうなるだろう。
結局、「ご近所さんのほうに引っ越ししてきたもんで~身内で挨拶させて
もらってます」と先輩は嘘をついて引っ張り出してる。
持って帰ったら帰ったで生産部は生産部で「こんなもん、うち、対応しきれへんぞ!」とぶーぶーいう。
この一ヶ月で覚えたこと――――
個人間同士でも女の子は「企業秘密やで」って使う。
お金払う人に「社長っ」ってつっこむ。
それと世間でゆう涙出る話を創作して聞かせてやれば、営業事務のおばちゃんが誘い文句なしについてくる。
マザコンの振りしておばちゃんを口説く。
トイレの場所覚える前の猫が恐い、猫は一回野良猫経験したハチワレ猫がお気に入りである。みたいな話をして猫をダシに部屋まで誘う。あとは酔っぱらせて。。。。
男は給料で抜きに行くことばかりを考えてる。話し合っている。
語彙はシモネタばかりがまず増えた。
工務にジェスチャー付きで仕事の説明しても右から左に抜けてる。
そんなことより「作業の手が止まる位面白い話、きかせてくれよ」と笑わせてくれることを望む。
笑えるエピソードが営業にも大事みたいだ。
煙草一本吸い終わるまでの話のつなげ方に命を懸けている。
「その得意先の事務の人可愛い人やねん」
「ああ、リスみたいな女の子がいてますよね」
「よう観察してるな」
品質が悪くてもとぼけて納品する。
「もう請求書上がってますから~」
今日の昼は営業先に同行したとき、銀行に勤めてる宇宙人の先輩を街で見かけた。
たしかもう地球に潜伏して5年ぐらい経ってるはずだ。
手にはカラーボールもっていた。
そのピンクのボールを見たとき、前に一緒に飲んだとき給料入ったらソープに行きやと
アドヴァイスを受けたのを思い出した。
スーツの胸内ポケットにしまっていた給料袋の膨らみをもう一度確かめて、椅子から立ち上がった。
「お先に失礼します」「おつかり~」みんな夜に繰り出すことで機嫌がいい。
タイムカードを押しながら
「さっ、おねーちゃんとこいこ」
と口に出していった。
★★
「坊や、こっちきいや」歌舞伎役者みたいな化粧のおばちゃんの呼ぶ声に振り返る。
横には綺麗な女の子が座布団に座っている。
立看板を見る――――70分1万5千円のタイムサービス。
「チビ巨乳の子はエロい」
稼いでる先輩達のなにげない談笑が蘇る。
店のほうに踵を返す―――値切り交渉を開始する。
★★
お昼に発表された、給料とは別で成績優秀者に送られる中古のベンツ――飴と鞭――を見たとき、うらやましく感じた。
先輩がもらった50万の飴、僕もいつかほしい。
励みになる。
まだまだこの惑星でやることが多い。
実家の惑星にメールを送る。到着まで約半年はかかる。
「もう少しだけ、この惑星にいます」
なにせ、この会社はクリスマスに幹部がセクキャバに連れてってくれるらしいから。
もう少しだけ、楽しませてくださいよ。
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