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弘子はとても喜んでくれた。
弘子が嬉しそうに微笑む顔を見ると、僕はいつもホッとする。
僕が初めて弘子に出会ったのは、高校1年の時。
クラスは違ったけれど、毎朝、同じバスに乗っていた。
弘子は背は低いけれど、しっかりした体格で健康そうに日焼けしていた。
その頃、僕は日本文学に魂を奪われていた。バスに乗るとすぐ、立っていても座っていても文庫本を開き夢中で読み漁っていた。
芥川龍之介、太宰治、有島武郎、山本有三、坂口安吾、谷崎潤一郎、井伏鱒二、その時代の作家たちに強く引き付けられたのは何故だったろう。
真剣な男の葛藤が、時代をゆっくり動かしてゆく仕組みを、彼らは訥々と語ってくれたのかもしれない。
そんな僕は同級生から見れば、実にトッツキにくい浮いた存在だったろう。昼休みは図書室の隅っこか、晴れていれば校舎裏の木陰に座り込み本を読んで過ごした。
その頃、僕の読書は、作家の精神状態や価値観の変遷、男としての生き方を疑似体験することに興味が集中していた。自分の心身に訪れる様々な変化や社会の出来事を、どう消化すべきか、人生の先輩の胸を借りて問い続け、学び続けているつもりになっていた。
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