6 夢の終わり

1/1
前へ
/16ページ
次へ

6 夢の終わり

 二度とないと思ったから、行為の最中の麻衣子はとても素直だった。  もっと来て、離れちゃいやとしがみついて、まるで娼婦のようだったから、たぶん彼も欲望をぶつけられたのだと思う。  彼の大事な人は壊れやすい細工物のような少女だから。自分はちょうどいいはけ口になれると、うぬぼれていられた。 「痛かったか」  けれど行為の後、包むように後ろから抱きしめられて、麻衣子はもう出ないと思っていた涙が流れた。 「全然」 「嘘ばかりつくな」  唇を寄せて涙をなめられて、麻衣子は憮然とした。  彼の言う通りだった。処女の血を流した体が、麻衣子の強がりを暴いていた。 「なんで初めてだって言わなかった」  晃はまた怒ったように言う。 「振り向きもしない男は誰なんだ」  私、初めてを晃にあげられたんだ。麻衣子はぼんやりとそれに気づいて、思わず笑った。 「麻衣子。答えろ」  苛立たしげに名前を呼ばれるのも、晃だとこんなにうれしくて、哀しい。  麻衣子は体を丸めて泣いた。晃は腕をほどかなかったから、息苦しいくらいだった。 「……忘れさせるか」  振り向かせられて、荒々しく口づけられた。足を開かされて、麻衣子の中に入ってくる。  晃が何に苛立っているのかはわからなかったけれど、その行為の行きつく先はわかっていた。  ……だめ、そんなに奥まで入ってきたら。繰り返し欲望をぶつけられた体は、麻衣子ではどうにもできない形を結んでいるかもしれなかった。  嵐に翻弄される木の葉のように、昇っては落ちる。食い入るようにみつめる晃のまなざしだけが見えていた。  晃が麻衣子を離したのは、明け方のことだった。  抱き上げてシャワー室に連れて行かれて、体を洗われた。その頃には麻衣子は強がりも言えなくて、晃のなすがままだった。  体から流れていく晃の残滓を惜しいと思いながら、これで終わりなのだとうつろな目で虚空を眺めていた。  晃は麻衣子の体を拭き終わると、ガウンを着せてベッドに寝かせた。 「少しだけ夢を見ていろ」  晃は屈んで、麻衣子の唇にキスを落とした。それは昨晩の嵐の中のキスとは違って、存外に優しいキスだった。 「……起きたら、現実しかないと気づくから」  子どものように頭をなでられて、麻衣子はその心地よさに目を閉じた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

165人が本棚に入れています
本棚に追加