序章 墜ちた凶星

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 産業革命がうたわれた現在、多種多様な工業製品を製造し、莫大な利益を得ているガラクシア・カンパニーの社長の次男として生まれ、育てられたロレンシオは前代未聞の危機に陥っていた。 1 移動手段がない 片脚での日常生活の営み方がわからない 2 家がない 3 戦地から帰還したものの、軍用馬車から降ろされた場所が下層区域と呼ばれる貧しい人々が暮らす区域であり右も左もわからない。 4 多額の退職金が支払われているから当面の生活には困らないが、仕事がない  主に以上4点の問題が挙げられる。彼としては、脚を失っただけでも精神的なダメージが大きいにも関わらず、追い打ちをかけるような父親の伝言に、肩を落とさずにはいられない。 ずっと考え込んでいると、鳩時計が鳴った。顔を上げると午後5時を差しており、役所の職員が何か言いたげに彼の方を見ていた。 (はいはい、役所が閉まるから出ていけってことだな……とりあえず、宿屋でも探すか)  彼は椅子から起き上がると、ぎこちない足取りで役所から出たのだった。 改めて周囲を見ると、すべてが薄汚れていて煤けているように見える。壁の隙間という隙間から蒸気が噴出している様子が印象的だ。一本裏道に入ると、通常なら見えないようにされている機械の可動部がむき出しの状態でそのまま壁のようになっている。窓と窓をロープでつなぎ、干されている洗濯物が絡まないか、ロレンシオはひやひやとした。 (……大丈夫なのか?)  上を見上げれば、目に入るのは空ではなく鉄骨だった。下層区域と呼ばれるこのエリア、ただただ貧しい人が住んでいるだけではなく、物理的に一般市民、貴族や金持ちが済むエリアである上層区域の下側の土地だ。上層区域の人々が暮らす土地を支えるため支柱が空を覆っているのである。隙間から見えるくすんだオレンジ色の空が、窮屈そうに見えた。  恐らく、町中を覆っている大規模な機械も上層部を支えるためのものだろう。 知識として知ってはいるが、現物を見るとそれに支えられてきた側のロレンシオは何とも言えない気持ちになった。
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