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そんなことをぼんやりと考えていると、遠くからエンジン音が聞こえたのだった。そのエンジン音はやがて大きくなり、まばゆい光線が彼の顔を照らす。
「うわまぶしい、なんだ!?」
顔をしかめながらロレンシオが起き上がると、目の前には一台の、車輪が二つ付いた機械とそれにまたがった人間がいた。先ほどのまばゆい光線は、機械から放たれているようだ。
その機械から降りた人影がこちらに近づいてくる。煤けた上下のつなぎ、オールバックにした白髪とゴーグル。葉巻をふかしながら、婦人、というよりは更に歳を重ねた女性がロレンシオに財布を投げつけた。
「若造が、なにこの世の終わりみたいなしけた顔してんだい」
そういいながら。
「え、あ……ありがとうございます?」
ロレンが財布の中身を確認すると、多少現金は減っていたが、身分証と退職金の小切手はそのまま入っていた。だが、どうしてこの婦人はスリから財布を取り返せたのだろうか。ロレンシオが疑問に思っていると、彼女が話してくれた。
「ふん、なんで取り戻せたか不思議がってるね。アタシが仕事終わりに一杯やろうとしたら、そいつらがどんちゃん騒ぎしてたんだ。やけに上等な財布を持ってね。話を聞いたら、片脚のない男から奪ったっていうから分捕ってやったのよ。そんで中身見たら道端の邪魔なところで寝そべってるあんたの顔写真付き身分証が出てきた訳」
「そんな素直に……?」
「聞くわけないだろう。こいつで黙らせたんだ」
彼女はガンホルダーから拳銃を取り出すと、にやりとした顔でロレンシオに見せた。
ああ……と納得したロレンシオは、財布を懐にしまったのだった。
「しっかしあんた、写真とは大違いだね。死人みたいな顔してる」
「そりゃ死んだ顔にもなるさ。軍人やってたのに片脚を失ったからな、どう生きていけばいいかわからないんだ」
鼻で笑いながらロレンシオの沈んだ顔を見下ろす彼女に、彼は自嘲するように返すことしかできない。
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