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「今日はどう見ても手加減してたよな!」
苛立ったような口調で男が言う。
「最後に大爆発を起こして、綺麗に勝ちたかったのでしょうね」
外観からは築五十年と見られるアパートの二階の一室で男二人が話している。身体中が黒く汚れていて、服は少し焦げ臭い。
「演出っていうやつか。へっ、本気でやったら十秒もかからずに倒せるくせに」
「でも進歩とも言えますよ。いつも攻撃一発でやられることも多いのに、今日はあれだけ粘れたんです」
「粘ったというか、粘らされたというか……」
半開きの窓から雨で湿ったような風が吹き込んでいる。天気予報では夜から雨が降るといっていたが、もう少し早く降りだしそうだ。
「いつも思うが、最後のあれは野球のヒーローインタビューか」
「ヒーローへのインタビューですからね。むしろ野球よりこちらの方が本家かもしれませんよ、榊原さん」
「そうかもだけどよ、なんか苛つくんだよな。あの定型文のような内容と、余裕感たっぷりの口回しが」
急に雨の音が大きく聞こえてくる。
「ほら、消毒液と火傷の薬買ってきたから行こう」
外からドアを少し開けて、女性が部屋の中に声を響かせる。
「メイさん、歩きたくないんですけど、ここで治療してくれませんか?ね?」
「無理、こんな薄汚い部屋に入りたくない。とは言っても今から行くところもあまりきれいではないけどさ」
男二人は残念そうに鞄を手に取る。外の女性に一声かけ、渋々と外に出てきた。
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