もう少しだけ

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 冷酷な顔をした扉を鍵で開き、玄関を潜る。洗い物が溜まったままのキッチンシンクの横を抜け、脱衣場で服を脱いでシャワーを浴びる。裸のままで部屋へ戻り、クリアボックスから取り出した黒のボクサーパンツを履いて、その上から昨日の夕方にベッドの上へ脱いだままになっているスウェットを着た。その間にも、時々数時間前の光と笑顔が思い出されていた。  ベッドに寝そべると、全身の疲労と鈍い痛みがより強く感じられた。酒も飲んだし、あれだけ騒ぐのは久しぶりの事だったから無理もないだろう。  直ぐに眠れるかに思われたが、不安が頭で渦巻き、目を瞑っている間中肥大化を続け、とうとう尿意を抑えきれなくなったように体を起こした。  電気をつけ、座卓の上のノートPCを立ち上げる。真っ白な光に照らされた六畳間はあまりに寒々しく、その空白が頭にまで入り込んできそうな気がして、常備灯に切り替えた。  手掛けている草稿は、まだ三万字にもなっていない。完結までのストーリーを頭の中で完成させた時の熱は一万字書いたところで消え失せ、今ではその惰性が残っているのかさえ怪しい。  初めから書きたい事を書かないからこうなるのだ。自分を咎めてみたところで筆が進むようになるはずもなく、遅れたアルコールのせいか、立て続けに吸った煙草のせいか、頭痛と吐き気が押し寄せてくる。
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