もう少しだけ

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 ディスプレイの光を苦痛に思い、手のひらで両目を覆うと、冷たい指先が眼窩に心地よい。  自分が今書きたいものとはなんだろうかと考えるがその手掛かりすら見いだせず、そういえば書きたいと思った作品を書いた記憶など久しくない事に気がつく。  世間に求められていないものを書いたところで、評価されるはずがないという言葉は、ある意味では親切なのもかしれない。書きたいものを書き、その悉くで敗北した俺が、未だにこうして書き続けていられる理由になっているのだから。  書くしかない。少くとも書かない限りは舞台に上がる事すら出来ない。そう言い聞かせながら、どうにか二千字程書いた。  読み返し始めて直ぐに悪寒を覚える。構想通りに物語は進んでいる。キャラクターも動いている。描写や文章も悪くはない。しかしそれが赤の他人が書いたよう、それもまるで無感情な機械によって書かれたように感じられ、気味が悪くなって、保存しないままパソコンを閉じた。  目を覚まして最初に最低のものを見てしまった。時間を確認するために手に取った携帯には、四件の着信履歴。  昨日の飲み会に誘われた段階で今日の仕事を休む事は決めていたが、報告を入れていなかったのを今更になって思い出す。 『体調が悪く、今まで寝込んでいて欠勤の連絡を入れられなかった』という言い訳は直ぐに浮かんだが、どうにも面倒で動く気になれない。メッセージで済ませればいいかとも思ったが、それではもし電話を折り返された際に居留守が使えないと考え、そのままベッドの上で三十分ほど思い悩むも、時間が経てば経つほど億劫になっていくばかりで、結局自棄っぱちで外へ飛び出した。
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