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題材にするのなら、あの子達がいいだろうか。幾つか物語を考えたが、どれも誰かにやられていそうな話ばかり。それより、仕事をサボり、こうして子供達を眺めている自分に題材としての魅力を感じ始めたが、こちらこそ過去に何度だって書かれてきたありきたりなもので、敢えて自分が書く意味も価値も見出だせないのだった。
もっと分かりやすく新しいものでなければならない。となれば、やはり今手掛けているような作品になるわけで、昨夜保存しないまま消してしまって文章を今さら惜しく思い始める。
「あれ? 木村?」
近付いて来る足音へ顔を向ければ、正面に渡瀬の姿があった。白いニットのセーターに明るい色のジーンズ。数年前ならば馬鹿にしていた格好が、様になっていて心がざわつく。
「なんでお前、こんなとこに?」
「仕事サボったから暇つぶし」
「は?マジかよ」
と渡瀬は吹き出して、
「昨日飲んでる時、予定ないって言ってなかったっけ?」
「始めからサボるつもりだったからな」
「うわ、最悪」
言葉とは裏腹に手を叩いて笑う。つられてこっちも笑顔を浮かべる。
しかし続く「変わらねぇなぁ、お前は」の言葉に突き飛ばされた。必死に表情を取り繕う。
渡瀬の後ろから、一人の男の子が近付いてきた。その子が渡瀬のニットを握ったのを見て尋ねる。
「誰?」
「息子」
「でかくない?」
「来年小学生。お前が前に見たのって確か生まれたばかりの頃だろ」
「あー」
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