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半年ほど前、何もない空間で俺は目を覚ました。
名前と年齢しか決まっていないとはいえ、作者によるぼんやりしたイメージみたいなものがあって、それで人格ができたのかもしれない。
上を見ると、「小説_題未決定.txt」という文字がある。その左には、バツマークが書かれた赤い四角があった。きみたちがパソコンの「メモ帳」を立ち上げたら、一番上に表示されているアレだ。
俺はそれによって、ここがテキストファイルの中であることと、自分が小説のキャラクターであることを知ったんだ。
俺はしばらくのうちは、毎日をわくわくして過ごした。
いったい、どんな冒険が待っているのだろうか! やっぱり今はやりの、異世界とかに飛ばされるのだろうか。
それとも超能力が使えるようになって、何かの組織に入って仲間とともに怪物とかと戦うのだろうか。
あるいは、学校の部活に入って他校と対戦しながら頂点を目指すのだろうか。
そんなことばかり考えた。
しかしどんなに待っても、ここに世界が構成されることも、仲間やらライバルやら恋人やらが現れることはなかった。物語が始まることも、もちろんなかった。
いったいどうして、作者は俺の話を書いてくれないのだろう。そんなことも考えるようになった。
さぼっているだけとは考えたくないが、仕事が忙しいのか? 身体を壊しているのか? それとも今、一生懸命、俺の話の構想を考えたり、資料を読んだりしているのだろうか。
でも、そんなことわかるはずもなかった。
俺は暇だった。物語の主人公に物語が与えられていなければ、暇に決まっている。会社に入ったけど仕事を与えてもらえないようなものだ。
世界そのものがないから、暇をつぶせるようなものすら、なんにもない。
せめて、「現代日本です」とだけでも明言しておいてくれたら、ゲームなり漫画なり取り出すことができたのかもしれないけど。
俺の名前が日本名だからって、この小説の舞台が現代日本とは限らないしな。
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