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 梓の小さな口が、端をパクリと咥える。  そのまま上目遣いで何度か漆黒の顔を伺ってきた梓は、意を決したようにビスケットを齧りながら、数センチ進んだ。  キスにはまだ少し距離がある、というところで、梓の動きが止まった。  両手を振って、漆黒の拘束を外そうとしてきたが、漆黒はそれを力を込めることでやり過ごした。 「……、て、はなして、くらはい」 「なんでだ」 「は、はずかしいれふ……」  ポッキーのせいであやふやな動きになった呂律で、梓がそう言った。  涙目の彼に、なんだかすごくいけないことをしている気分になって、けれど恥ずかしがる梓が可愛すぎて、漆黒はムラムラする気持ちを堪えながら、残りの距離を自分から埋めに行った。  突然近づいた唇に、梓が咄嗟に逃げようとする。  両手を引き寄せてそれを邪魔し、漆黒は梓の甘い唇に嚙みついた。  舌を吸ってやれば、ひくんと跳ねた体はすぐに漆黒へともたれかかってきて、漆黒は梓を抱きしめながらキスをした。  梓の喉がこくりと動き、唾液を飲み込む。  漆黒は口の中に残ったビスケットをすり潰して、甘いそれを梓の唾液ごと嚥下した。 「ポッキーなんて、久しぶりに食べたな」  もしかすると学生の頃以来かもしれない、と漆黒が言うと、梓がはにかみながら微笑した。 「僕は理久と一緒に、たまに食べてましたけど……でもやっぱり……」  ぼそぼそぼそ、と呟かれた語尾がなんと言ったのかわからず、漆黒がもう一度言ってくれと乞うと。  腕の中の恋人が、恥ずかしそうに、けれど蕩けるような笑みでそれを告げてきた。 「やっぱり、いつものタバコの味のキスが好きだなぁって、思いました」  梓の可愛さにまんまと煽られた漆黒が、改めて恋人へキスをしようとした、そのとき。  梓がふと思い出したかのように首を傾げ、 「そう言えば……」  と、無垢な目に漆黒を映して、問いかけてきた。 「そうとうでぃるどって、なんですか?」     可愛い口から飛び出したとんでもない言葉に、卒倒しそうになった漆黒だった。    END 
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