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おまけ(青藍×ちふゆ)
ちふゆはおかんむりだった。
なぜなら、ポッキーの箱が空になっているからだ。
「な、なんで先に食うんだよっ」
和装の胸倉を掴んで揺さぶると、あっけらかんとした明るい笑みが返ってくる。
「ごめんごめん。だって、目ぇ覚めたら枕元にあったからさ~。ちーが俺にくれたのかと思って」
「お、おまえにやったのはやったけど、ふつう全部食うか? 一緒に食うだろっ」
「いや、ポッキー久しぶりだな~って思って一口食べたら止まんなくなっちゃってさ。ちー、ごめんって」
「くっそ。おまえなんかポッキーの食いすぎでデブになればいいんだ。デブ青藍っ」
青藍を突き放し、ちふゆは彼に背を向けると部屋の隅に置いてあったリュックの方へ向かった。
「あはっ。ちゃんとトレーニングするから大丈夫だって。ちー? ちー、ほら、こっち来て」
ペットでも呼ぶかのように声を掛けられ、ちふゆはじろりと背後を睨みつけ、「ふんっ」と顔を背けた。
ごそごそとリュックの中を探り、そこからポッキーの箱を取り出す。
「なんだ。もうひと箱あるんじゃん」
いつの間にか背後に立っていた青藍にそう言われ、ちふゆは怒ったまま青藍の足を踵でドンっと踏んでやった。
「いてっ」
「これはオレのポッキーだからなっ。おまえにはやんないからなっ」
「いやさっき食べたからべつに……」
「絶対やんないからなっ」
言いながら、ちふゆはパリパリとパッケージを開き、ポッキーを一本つまみ出す。
そしてくるりと体の向きを変えて青藍と向かい合うと、ポッキーを高々と掲げてタクトのごとく振った。
「でもおまえがどうしても欲しいって言うなら」
「いやだから要らないって」
「欲しいって言うならっ!」
大声で青藍の反論を封じて、ちふゆは男をキッと睨み上げた。
「ひと口だけ、分けてやる」
そう言って、ちふゆはポッキーの端を自分の口の中へ入れ、反対側を青藍の方へと向けた。
青蘭の目が、きょとんと丸くなり……ちふゆの魂胆を悟った彼の顔に、明るい笑みが広がってゆく。
「ちー、欲しい」
「ひとくちだぞ」
「うん。分けてくれる?」
「ひとくちだけな」
「わかった」
青藍があーんと大きな口を開けた。
と、思ったら、ちふゆの口から出ていたポッキーのほとんどすべてが、青藍の口の中へと消えた。
驚きのあまり、ちふゆは「うわっ」と悲鳴を上げた。
青藍が噛んだ部分から先が、ぽとりと床へ落ちる。
口の中のポッキーをもぐもぐと食べてしまってから、青藍はちふゆの両頬をてのひらでサンドした。
「あ~あ、落としちゃった」
「お、おまえが驚かせるからっ」
「ちーがひと口って言うから、おまえにキスするために頑張ったんじゃん」
「ガメついんだよおまえはっ」
「でもさ」
青藍の顔がぐいと近づいた。
さすが人気男娼。間近で見てもカッコイイ。
「ポッキー落としちゃったから、ちーの負けな」
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