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「これ、僕にくれるの?」
「そ。青藍の分は部屋にあるし、ここに居たらお高いのばっかでベロがおかしくなんだろ? お菓子はこういうのが一番うまいよな~」
「ありがとう、ちふゆくん。なんか懐かしいな」
ポッキーのパッケージは梓にとっても見慣れたもので、それをまさか淫花廓で見れるとは思ってなかったので梓は箱をぎゅっと胸に押し抱いた。
笑顔の梓へとちふゆがススっと顔を近づけ、
「梓、今日ってポッキーの日なんだって」
とニマニマしながら告げてくる。
「ポッキーの日? ああ、11月11日だから?」
お菓子の形状になぞらえて記念日にしているのか、と得心した梓へと、ちふゆがさらにニマニマして頷く。
「漆黒さんと、やっちゃえば?」
「なにを?」
「ポッキーゲーム」
「なっ……」
梓は瞬時に真っ赤になった。
ポッキーゲーム。それは、二人の人間がお菓子の両端から食べ進め、キスをするのかしないか、そのドキドキを楽しむゲームだ。
梓はしたことがないが、知識としては知っている。
施設でもふざけてやっている子が居た。
それを漆黒とする……想像するだけで顔から火が出そうになる。
もう何度もキスはしてるし、なんなら体も繋げているのにポッキーゲームごときで、と思われるかもしれないが、普段タバコを咥えている男の唇がポッキーを咥えるということにもドキドキするし、端からお菓子を齧りながら漆黒の唇に近づくというのもドキドキするし、とにかく想像だけで心臓がおかしくなりそうだ。
「むむむむむ無理っ! 絶対無理っ!」
「なんでだよ~。ただのゲームじゃん、ゲーム!」
「だだだだって!!」
魚のようにパクパクと口を動かして、梓が反論しようとした、そのときだった。
「廊下で騒ぐんじゃないよと、何度言ったら覚えるんだい?」
甘い声が割り込んできて、梓とちふゆは同時に顔を振り向けた。
そこには、黒い紬をしっとりと着こなす、般若面の麗人(お面を着けているのに立ち姿からそれが伝わってくるからすごい)が立っていた。
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