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「般若さん!」
「性悪っ!」
梓とちふゆの声が被った。
二人の傍まで来た般若が、右手で梓の髪を撫で、左手でちふゆの金髪を引っ張った。
「イテテっ」
「誰が性悪だい、いい加減、きちんと呼び方を学習するんだね」
般若に叱られたちふゆが、首を振って彼の手から逃れ、子どものようにイーっと歯を剥いた。
「それで、仔猫二人が廊下で顔を突き合わせてなんの話をしてたんだい? ゲームとか聞こえたけど……」
面越しに流し目を向けられて、梓はとっさにポッキーの箱を体の後ろに隠した。
男衆に許可されたのだからまさか没収はされないだろうけど、安っぽいお菓子は淫花廓には不似合いだと般若の怒りを買ってしまうかもしれないと危惧したからだった。
しかし梓のその行動が逆に般若の注意をひいてしまったようだ。
「おや? なにか隠したね? もしかして、良からぬことでも企んでいるのかな?」
「な、なにもっ。ねぇ、ちふゆくん」
「そっ、そうだぜっ、ポッキーゲームの話なんかしてないからなっ」
梓は絶句した。
なぜ、梓が隠そうとしたことを暴露してしまうのだこのヒヨコ頭は。
これで憐れポッキーは箱ごと般若のあの丸下駄のかかとで踏みつぶされてしまうに違いない。
梓は後ろ手にしたポッキーをなんとか隠し通そうと手に力を込めたのだが……。
般若面の佳人は、小首を傾げているだけだ。
その反応に、おや、と梓は思った。
もしや般若は……。
「あんたもしかして、ポッキーゲーム知らねぇの?」
梓の抱いた疑問を、ちふゆがストレートに口にした。
「……なにゲームだって?」
般若の声が怪訝にこもる。
途端にちふゆが目に見えて偉そうに胸を張った。
「へぇ~。知らねぇんだ? まさかアレ知らないやつが居るなんてな~、なぁ、梓」
ちふゆは普段、般若にこきつかわれているから(お客なのに!)、ここぞとばかりに日ごろの鬱憤晴らしをしようとしているが……梓は正直、巻き込まれたくない。
愛想笑いでごまかそうとした梓をよそに、ちふゆがさらにふんぞり返った。
「ポッキーゲームってのは、あれだよ。端と端を咥えてやるヤツだよ」
ものすごくざっくりとしたちふゆの説明に、般若が「ああ」と頷いた。
「なんだ。双頭ディルドのことかい」
「え????」
梓とちふゆが目をパチクリとさせた。
そうとうでぃるど、というのがなにかはわからないが、ポッキーでないことはわかる。
首を捻る二人へと、般若が能面を少し上へずらし、セクシーなほくろのある口元を露出させて実演をした。
「両端を口で咥えるんだろう? こう……」
まるでバナナでも握るかのような手つきとともに、まるでバナナでも頬張るかのように大きく口を開けて赤い舌を覗かせる般若。
卑猥だ。
手つきも唇も舌も、なにもかもが卑猥である。
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