7人が本棚に入れています
本棚に追加
時刻は午前2時を指していた。紅白を観終わり、新年が明け、だらだらと過ごしている時に丑三つ時であることを知って、ふと呟いてみる。
「丑三つ時ってね、幽霊が出るんだって」
ちらっと源人の方を見ると、源人はビールを片手に口をあんぐりとさせ、こちらを怯えたような瞳で見ていた。
「えぇ……これから寝ようとしてる時に怖いこと言わないでよ」
源人は怖いものが大嫌いなのである。お化けも、ジェットコースターも、怖いものが大の苦手。怪談話なんて以ての外だ。ならどうして源人と付き合っているのか、と何度か友達に聞かれたことがある。付き合うなら怖いものや虫が大丈夫な人と一緒が良いのではないかという考えを持っているからだ。
確かに私も源人と付き合う前はそう思っていた。でも、いざという時に源人は大嫌いなものでも私の為ならやってのけてしまうのだ。そこが源人に惹かれた理由である。
「大丈夫だよ。幽霊なんて科学的根拠が無いんだから」
「でも世の中、心霊現象とか心霊写真とか心霊スポットとかいっぱいあるじゃん」
「あれは全部話題作りの為のネタだよ。気にしない、気にしない」
源人は恐怖を流すようにビールをぐいっと胃に流し込むと、空いた缶を潰してゴミ箱に捨てる。私はその姿をじっと眺めながら、ふと意地悪な考えを思いついた。源人が戻ってきたと同時に、後ろから源人の背中を思いっきり叩いた。
「わっ!」
「うわあああ!」
源人は情けない声を出すと、私はけらけら笑いながら「ビビりすぎ」と言う。源人は怒ったように唇を尖らすと、溜息を吐いた。
「意地悪だなぁ……」
「んふふ、意地悪してみたくなった」
源人はまた溜息を吐くと、おつまみをひょいっと摘まんで口に運ぶ。もぐもぐとする姿をじっと眺めながら、テレビの音に耳を傾けた。
「でもさぁ、おばけって要するに亡くなった人ってことでしょ?」
「そうだね」
最初のコメントを投稿しよう!