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源人は私に顔を向けると、朗らかな表情を浮かべながら「そう思わない?」と聞いた。私は首を傾げると、源人がまた顔をテレビに向けておつまみを口に運ぶ。
「茜が言った例えのように、大切な人が幽霊になって会いに来てくれたら嬉しいでしょ? 丑三つ時は幽霊が出る時間帯ってことは、亡くなってしまった大切な人とも会えるってことだよね? それって当人にとってはすごく幸せなことだと思うんだ」
驚いた。まさかあれほども怖がっていたはずなのに、こんなにもポジティブに捉えられるようになったなんて。
でも確かに源人が言っていることは一理ある。もし家族や大切な人が亡くなってしまったときに、目の前に幽霊の姿で現れたら、会いに来てくれたんだと思って嬉しくなる。丑三つ時は怖い時間帯だと言われているけれど、視点を変えれば案外幸せな時間帯なのかもしれない。
「茜に言われて気づいたんだけどね」
「じゃあもう丑三つ時は怖くない?」
「うん、そう思えば怖くない」
「幽霊は?」
「まだ若干苦手意識あるけど、その人が誰かの大切な人なんだって思ったら怖くない。むしろ怖がることが失礼だと思うようになってきた」
「お化け屋敷は怖がらせるためにあるんだけどね」
「それとこれは別だよ」
源人は立ち上がると、おつまみが無くなった皿をキッチンの流し台に運ぶ。気づけば時刻は2時15分になっていて、あっという間に15分が過ぎていた。
やっぱり、源人と付き合って心から良かったと思う。源人と一緒にいると落ち着くし、安心する。私は源人を心から尊敬しているし、どんなに感情が不安定でも源人を見たらすぐに元気になれる。そして何より、源人と一緒にいると「気づき」がある。丑三つ時のように。その一つ一つの気づきが私を変えてくれる。
「ねぇ……好きだよ。大好き」
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