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「影を・・・」
真っ黒な塊がゆらゆらと揺れながら、何かを叫んでいる。おれの声に似ているのでおそらく男だろう。人の形をしているが、ぼんやりとしていて頼りない。
「影を・・・」
真っ黒な塊はとてもやかましく、なんども同じことを言っている。影がどうしたのだろう、影がどうしたのだろうか。
おれには影がなかった。
これは夢だろう。おれは空を飛ぼうとして、裸の女がいることに気がついた。
女には影があり、おれには無かった。
「影を・・・」
ゆらゆらとしたペラペラの塊が相変わらず叫んでいるが、おれは空を飛ぼうとして必死に力をこめていた。数センチほど浮いたような気がしたが、おれには影がないのでわからなかった。
夢だ。ああ、これは夢だ。だから影が無いのか。
おれは夢の中で空を飛ぶのが夢だということを思い出していた。
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