何をなくした

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 久しぶりに自宅でぐっすり寝た。カーテンを開けると、窓の外はオレンジ色に染まっている。きれいな朝焼けだと眺めていると、商店街のチャイムが聴こえてきた。何のことはないおれが起きたのは夕方の五時らしい。  伸び切った建物の影を見ていると、昨夜の夢を思い出した。影がどうのこうの、という内容と裸の女が出てきたこと思い出したが、すぐに忘れた。  あっ、会社を無断で休んでしまった。電話しようとして、留守番電話が何件も入っていることに気がついた。 「ピー、今日はお休みですか? たまにはゆっくり休んでください」 「ピー、今日もお休みですか? 一報いただけたら幸いです」 「ピー、大丈夫ですか? なにか病気ですか?」 「ピー、せめて一言ください。無断欠勤は困ります」 「ピー、生きてる?」 「ピー、おーい、給料ドロボー」  「ピー、ばーか」  最後の方はおれを罵倒するメッセージでいっぱいだ。  あれだけ会社に貢献した人間に、この態度はなんだと怒り心頭し、おれは会社に文句を言ってやろうと思った。しかし、やけに頭がクラクラし、身体も驚くほど重かった。そう感じた途端、ふにゃふにゃと身体の力が抜けてしまい、文句を言う気も失せてベッドで横になった。  テレビを付けるとおれは驚いた。  火曜日だとばかり思っていたのだが、実際には金曜日だった。つまりおれは四日間も眠り続けていたことになる。なぜこんなに寝てしまったのか、そういえばものすごく腹も減っている。しかし、ここ一ヶ月は朝から晩まで働き、寝ずに女を抱いてきたのだ。そう考えるとそろそろ疲れを感じるのも無理はないかと納得した。珍しく誰からの誘いも無かったので、おれはふたたび眠ることにした。  ※※※  目の前におれがいる。そのおれは、おれに向かって何かを言っていた。  何を言っているかはやはりわからない。これが夢だからなのだろう。あ、これは夢なのだな。ついにおれは夢を夢と認識することができたのか。  ところがおれの身体は真っ黒だった。目の前にいるおれは間違いなくおれだ。しかし、おれ自身は身体が真っ黒でゆらゆらしている。輪郭がぼやけているようではっきりとしない。  本当におれはおれなのだろうか、自分の発する声がおれの声なので、かろうじておれはおれだと認識できている。  目の前にいるおれは、やはりなにかを言っている。  何を言っている?  影がなんだ?  いや、影はおれなのか。視界がぼんやりと暗くなってきた。ゆらゆらと揺れている真っ黒な指先が、うっすらと消え始めた。目の前にいるおれも同じように消え始めた。 「影を・・・」  目の前のおれは、おれを見ながら何か言って完全に消えた。
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