1 6月の限定パフェ

14/21
前へ
/123ページ
次へ
翌日の月曜日は2限からだったから、少しのんびりと登校した。 2限を終えていつものように恵麻を探す。 授業がかぶっていなければ、学食の入っている棟の入り口辺りで落ち合うのが暗黙の了解だった。 特に事前に連絡もないから、いつもどおりのはず。 「凪!」 恵麻が先に来ていたようで、私を見つけて駆け寄ってくる。 何だか焦っている様子で、私は首を傾げた。 「どうしたの? 恵麻。」 「どうしたのじゃないよ! 凪、あの天野くんと付き合い始めたって噂になってるよ!」 へ? 私は声も出せずにぽかんと口を開ける。 噂になってるって……早すぎない? 「なんでそんな噂がたったんだろう?」 恵麻は当惑した顔をしている。 恵麻は私のことをよく知っているから、おそらく、根も葉もない噂だと思っているのだろう。 「凪、みーつけた。」 耳元でそっとささやかれて、思わずびくっとする。 横を向くと、至近距離に天野くんがいて思わず横に飛び退いた。 「そんな逃げなくても。」 天野くんは体を起こすとくすくすと笑う。 そんな私と天野くんの様子を見て、今度は恵麻がぽかんと口を開けて固まった。 「天野くん!」 私がようやく言葉を出すと、天野くんはちょっとむっとした顔で私の鼻の頭に人差し指を置いた。 「名前で呼ぶ!」 「……智風。」 「よろしい。」 智風は満足げに微笑んだ。 「私と智風が付き合ってるって、噂になってるって恵麻から聞いたんだけど?」 「へぇ。そうなんだ。早いね。」 「……どういうこと?」 楽しげな智風の様子に、思わずちょっとむっとしてしまう。 「どういうことって……んー。朝に恋人の日限定パフェを凪と食べに行ったって話をちょっとしただけ、だよ?」 恵麻が私の袖をぴぴっと引っ張ってくる。 「と、とりあえず、私、食堂に行くね。 今日は令司が一緒の日だから!」 「え? 待ってよ。私も行く。」 「じゃあ、僕も一緒に行ってもいい? 恵麻ちゃん。」 智風がニコニコと恵麻に笑いかける。馴れ馴れしいのではないかなー、もう! 恵麻は真っ赤になって手を振る。 「私も彼氏と一緒だから、その……天野くんを連れて行ったら、突然すぎて彼氏がびっくりしちゃうから! えっと、また今度で。」 そうして恵麻は私に耳打ちする。 「部活の時、詳細教えなさいよ!」 恵麻はそそくさと建物の中に消えていった。 「ちょっと……智風。」 私はがっくりと肩を落とす。 この事態をどう収拾つけたらいいのかわからないよ。 「凪は今日もお弁当?」 智風はそんな私の様子など気にする風でもなく、呑気に聞いてくる。 「そうだけど?」 「じゃあ、食堂じゃなくてもいいね! あっちの中庭行こ、中庭。」 そう言って有無を言わさず私の手を掴んで引っ張っていく。 ……周囲の……特に女の子たちの視線が痛い……さすがの私もわかるくらい、注目を浴びていた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加