1 6月の限定パフェ

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「それで私のこと、覚えたの?」 「そう。」 へぇ……何が目に留まるかわかったもんじゃないな。 「で、僕の周りって、いろんな学部の子が集まってくるから、ちょっとリサーチしたんだよね、凪のこと。 だから教育学部の子で、同学年で、陸上部で……って、結構さくっとわかったよ。」 天野くんの情報網、すごいな。 「陸上一筋。幅跳びが専門。 大学の授業と部活以外はバイトだって言って、人付き合いもいい方とは言えない。特に仲がいいのは陸上部のマネージャーの子。 彼氏はいなそう。お昼も大抵マネージャーの子と学食にいるけど、凪は大体お弁当持ち。 朝は眠そうだけど、授業は割と真面目に受けてる。 自転車で通学しているから、自宅は大学から近そう。」 「ちょ、ちょっと待って。」 天野くんから出てくる私にまつわる情報が果てしなく出てきそうで、怖くなって天野くんを止めた。 「ん? あってた?」 天野くんは首を傾げて微笑む。 「最後のだけちょっと間違い。 自転車で通学はしているけど、隣の駅から通っているから、そこまで自宅は近くない。」 「凪は正直者だなー。」 天野くんは感心したようにそう言った。 あぁ……またバカ正直に答えてしまった。 「おまたせしました。」 そこへ店員さんがやってきた。 「デカッ!」 普通のパフェの……2倍どころじゃ済まない大きさのパフェが私と天野くんの間にどんと置かれて思わず言葉遣いが崩れた。 コーヒーも、それぞれの前に。 「すごいね。」 天野くんが目をキラキラさせてパフェを見ている。 幾分幼く見えた。 「こんなに食べられるの?」 「二人ならいけるんじゃない? あ!」 天野くんはふと心配そうな表情を浮かべてこっちを見る。 「凪、もしかして、陸上のために甘い物、実は控えてるとかある?」 「んー。少しは。でも、甘い物を控えているのは、陸上のためというよりは、嗜好品に回すお金がないからって理由の方が強いかな。」 「じゃ、一緒に食べられる? 食べてくれる?」 「うん。パフェなんて2年以上ぶりだから、ちょっとうれしいかも。」 そう言った私に天野くんはほっとしたような表情を向けた。
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