1 6月の限定パフェ

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「違う違う。 その子は彼氏がいて、その子はその子で昨日、彼氏とパフェ食べに行ったって言ってた。 だから、その子はただただ純粋に驚きとともに、噂を広めてくれたってわけ。」 「はぁ。」 私は言葉が見つからず、間抜けな声を上げる。 そんな私に智風は袋の中から小ぶりのパンを取り出して渡してきた。 「オレンジピールと生クリームが控えめに入ってるんだって。 小さいし、デザート代わりにどうぞ。」 「あ、ありがと。」 思わず受け取って、素直に口にする。 オレンジの風味がふわっと口の中に広がる。 ……おいしい。 「凪、かわいい。」 「へ?」 不意打ちのような智風の言葉に、私は思わず智風の顔の方を見る。 「今度は何言ってるの、この嘘つき。」 「だーかーらー! 僕、嘘ついてないし。嘘つかないし。」 智風が不満げにちろっと私に視線を投げた。 「昨日も思ったんだけど、凪がおいしいもの食べてる時、機嫌良さそうな表情になるんだよね。 その表情が、すごくかわいい。」 今度は私がちょっと智風を睨んで、ぷいっと顔を逸らした。 「冗談はやめて。別にかわいくなんかないし。」 「本当なんだけどなー。」 智風は私の頭をわしゃわしゃっと撫でてきた。 「また時々、おいしいもの一緒に食べよ。 そんで、その顔、また見せてよ。」 恥ずかしいからやめてほしい。 「そうだ。いくら仲がいいとはいえ、恵麻ちゃんに契約恋人だなんて言わないでね。 それは僕と凪だけの秘密だからね。」 ……しっかり釘を刺されてしまった。
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