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それから数日が経ち、部活の練習をしていると、マネージャーの恵麻にちょいちょいと手招きされた。
「何? 恵麻?」
「きっと気づいていないでしょ、凪。」
恵麻はニヤニヤと私を突く。
「何?」
「来てるよ、天野くん。」
「えっ?」
恵麻に促された方向に視線を投げると、運動場のフェンスの外の目立たない位置に、智風が立っていた。まったく気づかなかった。
「凪の練習、見に来たのかな? らぶらぶー。」
らぶらぶーって……。
私は苦笑しながら、智風の方に向かった。
「智風、どうしたの? 何か用事?」
智風はちょっと驚いたように私を見ていた。
「ごめん。練習の邪魔にならないように、こっそり見てたつもりだったのに、見つかっちゃった。」
「恵麻が教えてくれたの。」
「そっか……。」
智風が決まり悪そうに鼻の頭を人差し指でひっかいた。
「凪とは授業も1コマしか一緒じゃないし、昼も必ず一緒に食べられるわけじゃない。
大学の外でデートもなかなかできないし、そもそも凪はバイトで毎日忙しいだろ?」
「うん。」
「凪と会うチャンス、部活終わりくらいしかないからさ、ついでに一生懸命陸上に取り組む凪の姿も見られるし、いいかなって。」
「別に会うチャンス、作らなくてもよくない?」
契約の恋人なんだからという言葉は一応飲み込んだ。
「恋人なんだから会いたいし。」
涼しげな顔してそんなことを言う智風に、カッコ契約のカッコ閉じ、と心の中でツッコミを入れた。
「今日、自転車で来たんだけど、一緒に帰ってもいい?」
智風ににっこりとそう告げられる。
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