1 6月の限定パフェ

20/21
前へ
/123ページ
次へ
「いらっしゃ……!!」 店ののれんをくぐり抜けて店に入ってきたお客様。 いつものように元気に声を上げてお出迎えしようと思ったら、そこに立っていたのが智風で思わず声が途中で止まった。 「よ。」 人なつっこい笑顔で私に手を上げる。 「どうしたの?」 「どうしたのって……客。軽く食べて軽く飲みたいから来てみた。」 飄々とした風情で智風はそう言う。 「やおよろず」は、別に学生向けの居酒屋って感じではない。 仕事帰りの会社員とか、常連の近所のおっちゃんとか、割と年齢層上の人たちがやってくるから、智風みたいないかにも大学生の若者が来るような店ではない。 「どこ座ったらいい?」 それでも智風は別に気にしている様子はなく、笑顔で私に聞く。 「お一人様だから、カウンターで。」 私はカウンターの一番奥の席を智風に勧めた。 智風は席につくと、壁に書かれたメニューを見たり、テーブルの備え付けのメニューを見たりしていた。 「ビールと枝豆と冷や奴と唐揚げ。」 智風は悩んだ末にそう頼んできた。 「あ、でも、凪のお勧めとかって何かある?」 そのタイミングでたまたま奥の厨房からマサさんが出てきた。 「ん? 凪ちゃんの知り合い?」 どうやら智風が私の名前を口にしたのを聞いたみたいだった。 「あ、彼氏です。」 私が口を開くよりも早く、智風がにっこりとマサさんに笑いかける。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加