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「いらっしゃ……!!」
店ののれんをくぐり抜けて店に入ってきたお客様。
いつものように元気に声を上げてお出迎えしようと思ったら、そこに立っていたのが智風で思わず声が途中で止まった。
「よ。」
人なつっこい笑顔で私に手を上げる。
「どうしたの?」
「どうしたのって……客。軽く食べて軽く飲みたいから来てみた。」
飄々とした風情で智風はそう言う。
「やおよろず」は、別に学生向けの居酒屋って感じではない。
仕事帰りの会社員とか、常連の近所のおっちゃんとか、割と年齢層上の人たちがやってくるから、智風みたいないかにも大学生の若者が来るような店ではない。
「どこ座ったらいい?」
それでも智風は別に気にしている様子はなく、笑顔で私に聞く。
「お一人様だから、カウンターで。」
私はカウンターの一番奥の席を智風に勧めた。
智風は席につくと、壁に書かれたメニューを見たり、テーブルの備え付けのメニューを見たりしていた。
「ビールと枝豆と冷や奴と唐揚げ。」
智風は悩んだ末にそう頼んできた。
「あ、でも、凪のお勧めとかって何かある?」
そのタイミングでたまたま奥の厨房からマサさんが出てきた。
「ん? 凪ちゃんの知り合い?」
どうやら智風が私の名前を口にしたのを聞いたみたいだった。
「あ、彼氏です。」
私が口を開くよりも早く、智風がにっこりとマサさんに笑いかける。
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