1 6月の限定パフェ

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「時間通り。よかった。来てくれたんだね。ありがとう。」 その言葉で、来ないという選択肢もあったんだと初めて気がついた。 確かにあんなめちゃくちゃな約束、すっぽかしてもよかったのか。 失敗したかも。 そんな私の思いなど知らぬまま、天野くんは、私に青いデニム地のキャップをぱふっとかぶせた。 「似合うと思ったんだよね。それ、よかったらかぶってて。」 すぐそばにあるショーウィンドウに映る自分の姿を確認すると、キャップが加わるだけでおしゃれ度がアップしている気がした。 「今日の目的地はこの近くのカフェ。早速行こう!」 そう言って天野くんは私の手をすっと取り、手を繋いで歩き出す。 いやいや、待って待って! もうついていけないよ……。 「天野くん!」 私は慌てて声を上げる。 天野くんはピタッと立ち止まって私の方を見る。 手は繋いだままだ。 「うーん。名前で呼んでくれた方がいいなぁ。 智風って呼んで。僕も凪って呼ぶから。」 「はぁ??」 いきなり何言ってるのよ。 私が言いたいのはそんなことじゃないってば。 「そんなの無理に決まってる!」 ようやく私は抗議の声を上げる。 天野くんはきょとんとした顔をした。 「恋人らしくするには、その方がいいからさ。 今日の目的地には恋人として行かないといけないんだ。」 もう、何言ってるのかさっぱりわかんない。 「今日は、この間の話の詳細を教えてくれる約束だよね?  そのために会ったんだよね?」 「うん。そうだよ。 で、今日どうしても恋人同士として行きたいカフェがあって、そこに向かおうと思ってる。 詳細はそこで説明するから。効率的でしょ?」 いやいやいやいや。 「さ、行こう、凪。」 機嫌良さげに歩き始める天野くんに、どう抵抗したらいいか思いつかない。 繋いだままの手に引きずられるように歩かされていた。
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