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「時間通り。よかった。来てくれたんだね。ありがとう。」
その言葉で、来ないという選択肢もあったんだと初めて気がついた。
確かにあんなめちゃくちゃな約束、すっぽかしてもよかったのか。
失敗したかも。
そんな私の思いなど知らぬまま、天野くんは、私に青いデニム地のキャップをぱふっとかぶせた。
「似合うと思ったんだよね。それ、よかったらかぶってて。」
すぐそばにあるショーウィンドウに映る自分の姿を確認すると、キャップが加わるだけでおしゃれ度がアップしている気がした。
「今日の目的地はこの近くのカフェ。早速行こう!」
そう言って天野くんは私の手をすっと取り、手を繋いで歩き出す。
いやいや、待って待って! もうついていけないよ……。
「天野くん!」
私は慌てて声を上げる。
天野くんはピタッと立ち止まって私の方を見る。
手は繋いだままだ。
「うーん。名前で呼んでくれた方がいいなぁ。
智風って呼んで。僕も凪って呼ぶから。」
「はぁ??」
いきなり何言ってるのよ。
私が言いたいのはそんなことじゃないってば。
「そんなの無理に決まってる!」
ようやく私は抗議の声を上げる。
天野くんはきょとんとした顔をした。
「恋人らしくするには、その方がいいからさ。
今日の目的地には恋人として行かないといけないんだ。」
もう、何言ってるのかさっぱりわかんない。
「今日は、この間の話の詳細を教えてくれる約束だよね?
そのために会ったんだよね?」
「うん。そうだよ。
で、今日どうしても恋人同士として行きたいカフェがあって、そこに向かおうと思ってる。
詳細はそこで説明するから。効率的でしょ?」
いやいやいやいや。
「さ、行こう、凪。」
機嫌良さげに歩き始める天野くんに、どう抵抗したらいいか思いつかない。
繋いだままの手に引きずられるように歩かされていた。
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