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言ってしまった
ビービー煩い携帯。
ピロリンピロリンとメールを告げる音もウザい。
長嶋君と帰った夜から忙しい私の携帯は、土日の休日も鳴り止まなかった。
私の根性はなかなか捻くれている。
電源を落とせばいいものを、鳴るまま放置して相手の名前を確認しては悦に入っていた。
焦っているのかな。
それとも、年増な女から有望な男を若さと勢いで奪う気満々の新人社員に、牽制も嫉妬もせず、差し出すような真似をしたことを怒っている?
どっちでもいいから電話には出ないしメールも読まず、月曜日は何食わぬ顔で出勤した。
彼氏が仕事中、折を見ては私に近付いて来る。
それを察知して用もないのに長嶋君に声をかける私。昼のランチも彼氏に誘われる前にさっさと長嶋君を外に連れ出した。
「あの、こんなのはもう、やめましょう」
「何言ってんの。始まったばかりじゃない」
顔面蒼白、胃に穴が空きそうな長嶋君の悲痛な訴えを退ける。貴方、約束したでしょう? 彼氏に一泡吹かせたいから協力してと言った時、分かったって了承したじゃないか。何を今更尻込みしてんのよ。
「それは布施さんが俺を脅すからっ!」
「人聞きの悪い。冗談で言っただけじゃない。彼氏にやるって言われてたから、本当に既成事実を作ってみるって」
「冗談でも言っちゃいけないです! 布施さん、自暴自棄で男を誘っちゃダメだ。俺だから良かったものの、他の奴だったらペロって食われてますよ! もっと自分を大切にしないと」
「長嶋君でも怒ることあるんだねぇ。私の為にありがとう。これからも共犯者としてよろしくね」
金曜日の帰り道、私は長嶋君に迫ってみた。
盛大に慌てていたけれど、今のようにはっきりと嗜めてくれたっけ。だから交換条件を持ちかけた。長嶋君なら大丈夫。絶対に私に手を出さないだろう。気は弱いけど分別はつく人だ。
彼氏の暴言、悪口に傷付いたことを涙ながらに語り、長嶋君が相手してくれないなら行きずりの男を捕まえると言えば、長嶋君は案の定ヤメロと必死で止めてくれた。
彼氏に必要とされない私はどうなってもいい。
でも彼氏の思い通り、自分から別れを切り出すなんて腹が立つ。仕返ししたい。この怒り、この辛さ、この痛みを倍返ししてやらなきゃ気が済まなかったのだ。
『分かりました。俺で協力出来るならします。だから布施さんは絶対に他の人には行かないで下さい』
ちょっとキュンと来た。
長嶋君は案外いい男だった。
ただの同期の私を思いやる気持ちも、友人である彼氏を気遣う気持ちも持ち合わせている。
『あ、そう? じゃあ悪いけど長嶋君、貴方は今から私の言うように動いてもらうわね』
にっこりと笑って宣言すれば長嶋君は分かりやすく愕然として、え、あれ、今泣いて…あ、嘘泣き? と素直な言葉が口から漏れていた。
ごめんね長嶋君。
彼氏のアレは悔しかった。辛かった。
だから嘘泣きではないけれど、貴方を騙したことに変わりない。あのクズを叩きのめす為には長嶋君の力が是非とも必要だったのよ。
今も顔色の悪い長嶋君。
食が進んでないようだけど、しっかりと頑張って頂きます。
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