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見せつけてやった
例の言葉を盗み聞きしてからというもの、私は徹底的に彼氏を避けていた。
仕事で関わりのある所は普通に接し、仕事以外のプライベートのやり取りはメールで済ます。
電話は取らない。
デートに誘われても理由をつけて断る。
彼氏が他の女と話していても誘われていても、何も言わないし止めもしなかった。
彼氏の目に入る場所、つまり仕事の合間などはわざと長嶋君長嶋君と付き纏う。
親密そうに寄り添って、いつもより三倍増しの笑顔を心がけ、いかにも貴方に夢中です、というフリをしていれば、社内で私と長嶋君は噂になっていた。
「貴方達、付き合ってるの?」
「ううん」
「山本君と別れたの?」
「ううん」
色んな同僚が聞いて来るのを最低限の単語で返す。
長嶋君には、同期だから仲良いだけと言え、と指令も出していた。
そうこうしてたら、ある日、三井君に呼び出された。
「なぁ、布施。お前浮気してんのか」
「してないよ」
「じゃあ、長嶋を好きになったのか」
「好きだよ。同期だし良い人じゃん。三井君も長嶋君と仲良いから好きだよね?」
「……そうじゃなくてだな、」
「何が言いたいの。はっきり言えば?」
苦虫を噛み潰したような三井君に畳み掛ける。
彼氏の意を汲んで私を呼び出したようだけど無駄だから。煙に巻いて、もっとヤキモキさせてやる。
「山本と、あいつとどうなってんの」
「どうって? 別に?」
「山本は布施に避けられてるって悩んでるんだぞ」
おや、三井君ってば友人思いだね。
語気を荒げるなんて。
まぁ、私に苛ついているだけかもしれないけれど。
「そうなんだ。てっきり喜んでるかと思ってたよ」
「は? ……んなわけねぇだろ」
あらら、益々苛つきが増したようだ。
私の返事はお気に召さなかったようだけど、三井君に憤られる謂れはない。
「ねぇ、三井君。知ってると思うけど私と彼氏は五年の付き合いなの。五年も付き合ってる彼女に好き好き言われたら面倒くさい、構われたりしたらウザいでしょう? だからこれは私からの配慮のつもりだったんだけど。 へぇ、彼氏ってば悩んでるんだね」
「えっ?!」
「彼氏は私と別れたい、もしくは若い女と浮気したいんだと思ってた」
「……いやぁぁ、それは違う、んじゃ、ない、かなぁぁー」
「そう? でも三年目の浮気とか大目に見ろとか歌でもあるじゃん。三井君だって今付き合ってる彼女にがんじがらめは嫌でしょう?」
「おお俺は、いいいと思う! つーか、がんじがらめ? え、なん、まさか、あの、聞い、」
「三井君の気持ちはよぅく分かったわ。ご忠告どうもありがとう。心にしっかりと留めておくわ。二個上の彼女さんに宜しくね。あ、でも近々、是非二人きりで飲みに行きましょうとメールしとくよ」
「いい! いや、俺が言っとくから!」
「えー、そんなの悪いじゃん」
「わ、悪くない悪くない。その飲み会は俺も仲間に入れてくれ。参加したい。奢るから!」
ぷぷぷ。焦ってる焦ってる。
まだ困らせたい所だけど、ここらでお仕置きは終了しよう。情けなくも人を介してじゃないと私の動向を伺えない彼氏。ヤツが本命なんだから。
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