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幸福のち不穏 ( 彼氏編 )
パーフェクト。
頭からつま先まで。
ちょっと気が強いけど情に脆い姉御肌な性格も、甘えたな俺にはピッタリだった。
会社の同期として知れば知るほど彼女に惹かれていく。
本命の彼女がいるくせに、女を見ればすぐに手を出すチャラい三井も、童貞臭漂う大人しい長嶋も、同期の男共全員が彼女を狙っているようで気が気じゃない。でも、見栄っ張りな俺は彼女に惹かれている心を隠していた。
同期の中で誰が可愛いとか、誰がエロい身体つきだとか、男ならではの下世話な話しが出る度に名前が上がる彼女。気のないフリで耳をダンボにしつつ、彼女をそういう目で見ている男には裏で気付かれないように制裁を食らわしていた。
ちっせぇな、俺。
告白する勇気もないくせに。
悶々と募る想いが膨らむばかり。
勝手に抱いた焦りで不安が爆発寸前になっていた頃、「私、山本君がいいなぁって思ってるの」と、まさかまさかの彼女から歓喜の言葉を賜わった。
即座に是と返事して交際をスタートさせたけど、俺の悪い癖は治らない。
二人の時は存分に愛を注げるが、周囲に人がいれば素っ気ない態度を取ってしまう。
男が女に溺れてるところなんて見せられるか。
変な見栄が本心の邪魔をする。
本当は誰がいようがめっちゃ好きだと叫びたい。
このパーフェクトな彼女は俺のモノだと言いふらしたい。
いつも思うのに、心底思っているのに、見栄が全てを台無しにしていた。
救いなのは、こんなややこしい面倒くさい性格の俺を彼女が変わらず好きでいてくれること。
めげずに裏表のない真っ直ぐさでぶつかって来てくれることだろう。
それに甘えている自覚はある。
でもどうにかしたいから、絶対に失いたくないから、分かって欲しいから、二人きりになれば全身全霊で愛を捧げていた。
交際は順調。
五年も経てば将来だって意識する。
俺にはのぞみだけ。
のぞみ以外と歩く未来は描けなかった。
満を辞して。
ネットで予約した高級ホテルの一室。
綺麗な夜景、高いワイン、日常から離れた洒落た空間に何も言わず呼び出して、入って来たところ指輪と大輪の花束を片膝をついて差し出した。
結婚して下さい。
のぞみは驚きで目をまん丸にして、そして一呼吸置いたのち、顔をくしゃくしゃにして、はい、と。嬉しいと泣き笑う。
良かった。俺も嬉しいよ。幸せになろうな。
人生で一番最高の夜を過ごした。
幸福過ぎて、これは夢なんじゃないかと錯覚したぐらいだった。
緩む顔が押さえられない。
細かい仕事も率先してこなせる。
のぞみがいれば、俺は誰にも負ける気がしないし何だって出来るだろう。
ふわふわ、ほわほわ、夢見心地。
この幸せな報告を仲の良い同期にしようと昼休憩に誘ったはずが……またしても変な見栄が口から出ていた。
バカじゃね?
何言ってんだ俺。
結婚だぜ。
将来が決まったくせに、性懲りも無く思ってもみない言葉をつらつら吐いていた。
まぁ、言ってしまったものは仕方ない。
また後で。
のぞみと一緒なら、あんなクズ発言は出ないだろうと、幸せ報告をちゃんとする算段をつけていた。
……が、
その日からのぞみは俺を避け出したのだ。
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