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不穏のち激震 ( 彼氏編 )
受付の新入社員に囲まれていたからヘソを曲げている。
長嶋を誘って帰る後ろ姿を見ながら、嫌な気持ちにさせた謝罪しなければならないと思っていた。
纏わりつく新入社員の誘いを断り、ブーブー文句を垂れる三井を振り切り、急いでのぞみに電話する。出ない。メールする。見てくれない。
もしかして怒ってる?
あのね、のぞみ。アレは違うんだよ。誤解だよ。
嫌な場面を見せてごめんね。そのままにしてたのは、外しても外してもしつこかっただけなんだ。本意じゃない。本当だよ。飲みに行く気もなかったし、俺はのぞみが出て来るのを待っていただけなんだ。
留守電に何回も自分の思いを入れた。
メールにも入れた。
だけど、休日も返事が来ることはなかった。
死んだような休日を過ごし、月曜日に面と向かって誠心誠意謝ろうと意気込んでいたが、のぞみは長嶋君長嶋君とあいつばかりと話し込んでいる。
隙を見てはトライするも、俺が動けばのぞみも長嶋に向かう悪循環でどうしようもなかった。
まさかと。考えたくなかったものが頭を占める。
長嶋を呼び出して、それとなく聞くも普通に帰ったとあっさり言われた。
じゃあ、のぞみのあの態度は何なんだ!
メールの返信もない。
俺の謝罪についても聞いて来ない。
長嶋君長嶋君と、お前ばかりを気にしている。
苛々が悶々になり悶々がソワソワになり、ソワソワがゾワゾワとした恐怖の悪寒となれば、社内で長嶋とのぞみはデキている、などと許容し難い噂が流れ始めた。
頭がおかしくなりそうだ!
許すまじ長嶋!
見栄なんてどうでもいい!
前以上の、オブラートに包みもせず、返答によっては殺す気の形相で問い詰めた。
「誤解だよ本当に。何もないから」
「嘘をつけぇぇーーっ! 貴様ぁぁーーっ!」
「っっ! ぐえぇぇっ、ちょ、くる、苦しいっ!」
「おい山本! 落ち着けって!」
この時の俺はどうかしていた。
噂による怒りで我を忘れ長嶋の首を絞め上げる。
三井に止められなければ、きっと俺は犯罪者になっていただろう。
「俺が布施に聞いて来るから。お前は頭を冷やせ」
頼もしい三井は俺を心配してくれている。
そりゃそうか。
のぞみと付き合っていても、見栄っ張りな態度しか見せていなかったのに、豹変したかのように狼狽えているんだから。
長嶋はそんな俺に憐れみの表情を向ける。
やめろ。そんな顔をするんじゃねぇ。
まだお前の容疑は晴れてない。
もし仮に。
のぞみに手を出していたならば。
絶対にぶっ殺すからな。
睨み返してやると益々長嶋は可哀想な子でも見る目付きになっていく。ふざけんな!
「三井、どうだった?!」
帰って来た三井にすかさず問いかける。
その時の三井が青褪めていたことも、挙動不審に目まぐるしく空を彷徨う視線も気付かぬままに。
「あー、まぁー、布施にも色々あんだよ……」
「その色々が知りたいんだろうが!」
「だよな、でも、まぁ待て。大丈夫だから」
何をもって大丈夫なのかさっぱり分からない。
曖昧過ぎる三井の答えに頭を抱える。
お前、何しに行ったんだよ!
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