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「尾を引く傷の根。芽吹くは怨恨。
怒りが花咲き、また枯れる。感情は眠らない。
誰かが生きる限り続いていく」
雨の銃弾に打たれて死んでしまったアーティストの未だに枯れない歌だ。
もう少しだけこの世界で生きたいと願う者の歌だ。
今や世界はロボットの手に落ちてしまった。
いつ殺されるか分からない。かといって逆らうこともできない。
魔法使いとかいうレジスタンスが活動しているようだが、成果は上げられていない。あまり期待しない方がいいかもしれない。
宇宙船を買う金すら持てない一般市民には前後の道がない。
それは彼女も同じことだろう。
パーカーとジーンズを着て、猫のような日々を過ごしている。
いつも静かに惰眠をむさぼっている。
何をするでもなく、ただひたすらに眠っている。
背後から腕が伸びて、そのまま腰に回される。いつからいたのだろうか。
今のが聞かれていたかもしれない。
「どうした?」
腕を離し、背中でゆっくりと文字を書いていく。
指先がかすかにふるえている。
『へたくそ』
「そうかよ」
幼い頃、家族が雨に打たれて死ぬ姿を目の前で見たらしい。
あっというまに肉塊になり、清掃車に運ばれていった。
それ以来、彼女は一言もしゃべっていない。
感情も失ったようで、表情が変わったところを見たことがない。
普通に学校にも通って卒業した。
世界の環境はロボットによって操られ、支配された。
人類は地上から追い出され、地下生活を余儀なくされた。
どれだけ世界が変わろうとも、彼女は何もしない。
チャットアプリで会話はできるから、不便さは感じない。
いつも家にいるから、孤独さも感じない。
ただ、停滞している空気に嫌気がさすことはある。
「このままでいいのだろうか」と焦りを感じる時もある。
「何か食べるか」
『うどん』
「そればっかりだな」
インスタント食品を開封し、お湯を沸かす。
カップうどんを二つ開け、かやくを入れる。
彼女を見ていると、すべてが馬鹿馬鹿しくなる。
感情の波を立てず、のんびり過ごしている。
もう少しだけ、彼女と生きていられたらいい。
もう少しを積み重ねて、生きていけばそれでいい。
そう願うのはいけないことなのだろうか。
湯気は何も答えなかった。
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