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「すみません。初対面で乗せてもらって。」
未来が電車だと知った優子は、自分の車に乗るように言って、今日の会場だという居酒屋に向かった。
「気にしないで。誘ったのは私の方なんだから。交流会はフリーになった人や中小の代理店で働いてる人同士の集まりなの。仕事を紹介しあったり、時にはライバルにもなるんだけど、いい刺激になると思う。中西さんも知っている人いるかもね。」
「いえ、私は…。」
と言い掛けて、未来は首を振った。
「そういうの苦手?」
優子に言い当てられて、未来は素直に頷いた。
「有難いことにフリーになっても、前にいた会社の縁で依頼を頂いてどうにかやってます。でもそろそろ自分でチャレンジしないといけないと思って、コンテストにも応募したんです。」
「そういえば吉田さんも話してたな。社長のおかげだって。子どもが生まれてからは、中々会う機会もないんだけど、仕事は続けられてるのね。」
いろいろ話をしていくうちに、優子の夫が今日のメンバーのひとりだと知った。
まだ暗くなりきっていない時間から、一軒の居酒屋に入ると、未来は急に緊張してきた。
「さっき仕事で知り合ったばかりの子を連れてきましたぁ。」
優子が個室に入るなり元気よく声を掛けると、皆が一斉に二人の方を見た。
「初めまして。突然お邪魔してすみません。中西と申します。」
未来が頭を下げて挨拶すると、手前に座っていた男性が立ち上がり、すぐに胸ポケットから名刺入れを出した。
「ようこそ。村上と言います。その元気な奴の旦那してます。とりあえず、初めてのメンバーは皆と名刺交換をすることになっているので、よろしく。」
優子の夫である村上の優しい笑顔に、未来は少しほっとして、座っていたメンバーと挨拶を交わした。
そして入り口に近い席に優子と並んで座った未来は、人が増える度に、優子に紹介してもらい名刺を交換した。
「本日は以上のメンバーにプラス中西さんです。」
皆が揃ったところで村上が乾杯の音頭を取って、飲み会がスタートした。
会社を辞めてから、こんな雰囲気は久しぶりで、未来は新参者の洗礼である質問攻めに合っていた。
何と言っても未来が困ったのは、皆が青島の名前を知っていたことだ。
しかし誰一人として未来と特別な関係にあるとは思わないらしく、後ろめたさを感じながらも聞かれないから話さないだけだと、未来も徐々に開き直ることにした。
年齢は皆、未来より上らしく、女性は未来と優子を入れた四人だった。
初めて参加する未来の隣には入れ替わり立ち替わり誰かがやって来ては、思い思いに話をしてくれるので、手持ち無沙汰になることはなく、顔見知りこそいなかったが、会社名を聞けばどこも知っている所ばかりで、こうした繋がりがあることに未来は驚いていた。
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