追想

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  「今、何処おるん?」  「あー☓☓の現場おるでー。」  「そっち終わったらこっち手伝いに来てくれへん?」  「おぉ、わかったー!」 そんな会話を、俺達は何度してきただろう。 ーーーーーーーーーー   「…今、何処おんやろな…。」 窓から差し込む光を追って空を見上げる。 いつものベッドの上で、ほんの少し前の事を一人振り返る。   『おぅ!遅かったな!今日は何処の現場行くんや?』 ニコニコと笑顔でガレージから出て来たのは、俺と親父と一緒に仕事をしている叔父さんだった。 準備万端でトラックに乗ろうとする叔父さんの隣には爺ちゃんもいる。  「いや、その状態で運転出来んの!?」 俺は慌てて二人の足元を指差す。  「自分ら足透けてるやん!!」 そう、二人はもういないのだ。 爺ちゃんは7年前に。 叔父さんはついこないだ亡くなった。 突然死だった。 俺自身まだ、受け入れられていない状態だ。  『大丈夫!大丈夫!』 叔父さんはいつも通り、相変わらずな返事で行こうとする。 自分が死んでいることはわかっているようだが…。 ふと気になって、隣りにいた爺ちゃんに訊ねる。  「婆ちゃんはどうしてるん?」  『ん?家におんで。』 と、爺ちゃんは笑って答えた。 どうやら3人とも一緒に暮らしているらしい。 仲良く、生きていた時と同じ様に。  『ほな、行ってくるわー!』 と、元気よくトラックに乗って二人は仕事に向かった。 ーーーーーーーーー  『終わったでー!!』  「いや、早ない!?」  『次んとこ行くからこのまま乗ってってえぇか?』  「あ、うん、えぇけど。」  『じゃあ、行ってくるわー!!』 そう言って再びトラックに乗って出かけてしまった。 ふいにGPSの存在に気付き、二人が行った場所を確認する。 そこに示されたのは地図に無い、全く知らない場所だった。 ーーーそして今、 俺は目が覚めて起き、それが夢だった事に気付いた。    (…夢ーーーか?) どうもそんな感じがしない。 何となくあの時、俺はあの世の一部と触れたんじゃないかと思った。 霊感とかそういったものは全く無い人間なんだが…。 どうやら二人は、向こうでも一緒に仕事をしているらしい。 トラック欲しかったのかな。 仏壇にミニチュアでも置いておこうかな。 まるで、今の事を知らせてくれる、手紙の様な夢だった。 最期まで、笑っていた叔父さん。 何時も、笑っている顔しか思い出せない。 そっちでも、あんまり人の為ばかり頑張らんといとくれよ。 自分、大事にしてや。 また、知らせてくれるかな…。 一人眺めていた確かな空が、 ゆっくりと、静かに滲んでゆく。  「…おっちゃん…。」 ーーー今、何処におるん?
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