お礼のタイミング

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お礼のタイミング

まだ僕が1歳のころ、歩道に飛び出すのと同時にトラックが迫ってきた。呆然として動けなくなっていた僕を間一髪で救い出してくれたのが、今日お礼を言いに行く田代さんという人だ。 僕を救い出してくれた後も、田代さんは野良の僕たちに時々えさをやりに来てくれた。いつもとても優しい表情をしている田代さんだったが、一日の終わりには少し悲しい表情をしている気がして、背中が小さく見えた。 田代さんに恩を感じ、すぐにお礼に行かせようとした母さんに反対したのはイラおばさんだった。トムおじさんが人間にお礼をしに行ったきり、戻ってこなくなってしまったから、僕も同じ目に遭うのではないかと心配したのだ。結局、当時1歳だった僕が2歳になるまで、お礼は延期されることになった。 「ワンダが2歳になったらすぐにお礼に行かせますから。」 「そもそもメスの鶴が始めた文化を犬の私たちもやる必要があるのか、アタシには疑問だね。」 今では人間以外の動物にとって当たり前になったこの文化は、遠い昔に人間の男性に助けてもらった鶴が人間の姿でお礼に行ったことが始まりらしい。その鶴は自分の羽を抜いて布を織ったりしたそうだが、人間の姿でお礼を伝えることだけが伝統として多くの動物に受け継がれている。
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