人間になるために

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人間になるために

僕たち犬には、いや、人間以外の全ての動物には守るべき一つのルールがある。 「母さん、どうして僕らは僕らの姿のままじゃ、人間にお礼に行けないの?」 「どうしてってそれは、犬の姿のままじゃ人間の言葉も話せないから、ちゃんとお礼も言えないからよ」 母さんは僕の前足に付けているアンクレットを外す。母さんが僕の居場所がすぐに分かるようにと鈴付きのものを見つけて拾ってきてくれたのだ。人間に姿を変えるときに付けたままだとサイズが合わず、締め付けてしまうらしい。 「本当に、これを飲むの?」 母がトレーに用意したスープのような液体はピンク色で人間がよく落書きに使うペンキの色を連想させた。このスープが姿かたちを人間に変えてくれるらしい。 「もちろん美味しくはないけど、人間にお礼を言う恩が出来たら、これを飲んで人間になってきちんと感謝の気持ちを伝えなきゃいけないの。トムおじさんだって飲んだんだから、ワンダも大丈夫よ」 このスープを飲んだことがあるのは家族でトムおじさんだけだ。川に落ちて溺れかけているところを川沿いのテントで暮らしている人間に助けてもらったらしい。野良の人間というのは珍しいらしく、そういう人間はホームレスと呼ばれるのだという。 「はい、よく飲めたわね。」 スープのあまりの不味さに驚き、母さんをにらみつける。 スープを飲んで少し経ってから、体が内側からひりひりと焼けるような感覚に襲われ、そのうち前足を地面につけていることに違和感を覚えるようになった。視線も自然と高くなって、いつもより遠くが見渡せるようになった。
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