雪国と少女

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北国の町は観光地らしくたくさんのお土産屋さんが並んでいた。どのお店も雪化粧をしていてかわいらしい。小さな私にせがまれるままに出店のホットココアを買い、雪を踏んでいく人々を眺める。 (真っ白だね。) 彼女はココアの入った紙コップで指先を温めながら、呟いた。 (なんだか寂しいね。) 人は大勢歩いているのに、雪が周りの音を吸って明らかに音が少ない。まるで昔の映画みたいだ。時間が止まってしまったかのように錯覚してしまう。 彼女の寂しさが伝わってきて私の心もキュっと締め付けられた。人がたくさんいるのに自分が一人だと感じる、あの街中に似ている。自分が本当に一人になってしまったんじゃないかって錯覚する、あの夜に似ている。 不意に左肩に温かさを感じた。少女が私に身を寄せている。彼女はココアを持ったまま何も言わず道行く人を眺めていた。 さっきまで感じていた寂しさが彼女の熱で溶けていく。たったこれだけのことで涙が零れそうになった。 3時過ぎ。緯度が高いせいか空はすっかり夜だった。私と彼女は夜景が見れるロープウェイに乗って、町の光と星の光を両方楽しむなんて贅沢なことをしていた。 (星、綺麗だね。キラキラしてる。) 彼女の言葉にハッとする。そういえば私は星が好きだった。その好きは高校生まで続いて、実家にいた頃はよく望遠鏡を担いで山に行っていたな。でも夜空を見上げるのなんて何年ぶりだろう。毎日夜遅くに帰っていたのに、地面ばかり見て歩いていたから。 今日はずっとその繰り返しだった。彼女の何気ない喜びは、私がいつの間にか忘れてしまっていたことだった。雪にはしゃぐことも、甘いものを食べる贅沢も、本屋さんで何時間も本を眺める幸せも、星に感動する気持ちも。どれもいつの間にかなくなってしまった。いや、時間の無駄だと自ら進んで捨ててしまったのか。
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