雪国と少女

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あれを見て、と遠くで声が聞こえた。空に目をやると、空がもにょっとしている。あれは何だろう。 ぼんやりともやもやを眺めていたら段々とそれが緑色に見えてきた。初めは目の錯覚だと思ったけれど、緑は次第に強くなっていく。 オーロラだ。と誰かが叫んだ。 あれがオーロラ。空の端っこで山の陰から控えめに顔を出してる、私の知ってる空にはない異質なもの。蛍光色のインクが溢れ出したみたいに空に浮いている。 気が付けば空全体が薄い靄に覆われていた。靄が濃いところは薄く緑色に光っている。それがたくさん集まって線を描き、ゆらゆらと揺らめき始めた。生き物のように、ゆっくりと体をくねらせながら空を進んでいく。ぎゅっと集まった光がカーテンの裾を滑って、空に魔法をかける。 (すごい!キラキラだ!) オーロラなんて生涯で見ることはないし、テレビで見れるから見る必要がないとすら思っていた。でも、目の前に広がっている光景は信じられないものだった。テレビで見たものとも、想像したものとも違う。こうやって意味が無いと切り捨てて、私はいくつの喜びを無駄にしてきたんだろう。 空の縁から流れてきた光は、ついに私たちの真上で踊り始めた。頭の上でオーロラが放射状に広がり、妖精たちが手を繋いでくるくるとまわる。見上げることしかできない私を高い空から笑いながら見ている。ほら、空はこんなに広いのに、あなたたちは空も飛べないのね。 (飛べるよ!) 隣の少女はそう叫んで地を蹴った。オーロラの妖精に混じって小さな私が踊っている。 ダンスは加速していき、ステージはクライマックスを向えて、緑の光がパッとピンクに変わった。1回、2回と宙返りして、オーロラは流れていく。
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